25 茶道陶磁その2
[さ]
雑器
△呉須ゴス冠手カンムリデ火入ヒイレ(高9.2p,径9.5p 茶道文化研究所):呉須は明代
中期以後石媽シーマ窯で焼造され,貿易品として輸出されたもので,冠手のほか日月鳳凰
・水玉・水鶏クイナなどの形物火入があります。
火入には筒向ツツムコウなど「のぞき」と称する深い向付類が援用されたり,香炉が火舎
ホヤを除いて用いられることも多いです。しかし,磁器火入には真塗・溜塗煙草盆が,
志野・織部・唐津などの施釉陶には一閑張イッカンバリなどが映り,備前・信楽など自然釉
陶には木地・焼杉などがよく合います。
△絵唐津扇面形センメンガタ火入(口径11.8p 出光美術館):唐津多久タク高麗谷コウライダ
ニ窯の焼造で,江戸初期のものです。筒形に轆轤で水引きし,口縁を扇面形に成形した
上に,葡萄唐草を鉄絵で簡潔に描き上げています。元々向付であり,五客揃ったもの
が幾組みが遺存していますが,分割して火入に用いられる例が多いです。火入の使用
に際しては,煙草盆との大きさ,盆の縁の高さと火入の高さ,火入の釉色と盆の塗色
又は木地の色などを,充分に考慮することが大切です。また取合せ上,水指・花入・
菓子鉢などと同種の火入を用いたり,その他類似する器形の煙草盆の使用も避けた方
がよいでしょう。
国焼陶器火入には,志野・織部・備前・丹波・薩摩・高取など使用例が多く,京焼
などによる写しもの(色絵・雲華ウンカ・楽焼)も多いです。
[し]
酒器シュキ:懐石道具中,酒器の占める役割は重いです。まず銚子と盃台に引盃ヒキサカズキを
載せて持ち出し,亭主が客一人一人に挨拶旁々,遠来の客を労ネギラい,感謝の意を表
し,酒を注いで一巡するのです。盃に酒を注いで戴くまで,向付の肴には手を付ける
ことはできません。引盃は,洗朱又は朱塗の木製で,それぞれの流儀に拠ってほぼ一
定した形のもの(利休形=三千家,山伏形=薮内家)が用いられます。しかし,塗り
方(真塗・蝋色ロイロ塗・刷毛目・目弾きメハジキ塗など)や蒔絵(草花・鳥・波など)は,
茶匠・数寄スキ茶人の好みによってなされましたので,その種類は多いです。盃台は一
般に黒真塗利休形が使用され,引盃5客につき1台は必要とされます。銚子には種々
の意匠が凝らされ,千変万化です。しかしながら,奇をてらうようなものは避けた方
がよいでしょう。正式な作法に用いるのですから,品格が大切です。蓋は共蓋とかモ
ール蓋など,比較的地味なものを最初に用い,八寸にて今一度持ち出すときに,替蓋
を使用するのもよいでしょう。青磁・染付・赤絵など磁器のものは広間での懐石に映
ります。また,志野・織部・楽焼・木地などは,四畳半以下の小間コマで用いてもよい
でしょう。しかしこれらに関して約束事がある訳ではありませんから,その時と場所
に応じて考慮すればよいでしょう。古来茶事懐石では,前後二献とされていましたか
ら,今日のように預アズケ徳利に石盃セキハイを持ち出すようなことは行われなかったらし
いです。多分極近代に至ってからの慣例であり,酒を飲めない連客と知りながら,千
鳥の盃を重ねたり,預徳利を2本3本と客前に並べますのは,好ましくありません。
たとえ酒を好む連客と雖も,宴席ではありませんから,煮物椀・箸洗・湯桶ユトウが出る
ときには,早い目に酒盃の交換などは切り上げなければなりません。懐石はその文字
が示すように,満腹感を覚える程客に薦めるべきではありませんし,酔う程に飲酒す
べきでもありません。足り過ぎるのは,足らざるより悪いのです。
預徳利は,古赤絵・金襴手キンランデ・染付・祥瑞ションズイ・九谷などの磁器と,粉引コ
ビキ・刷毛目・井戸脇・朝鮮唐津・萩・備前・丹波・志野などの陶器とを組合せて用い
られます。大振りの徳利は客同志のやりとりに席中に預け,亭主は水屋に下がって相
伴するところから,「お預け徳利」と呼ばれるようになりました。
徳利には焼物盃が必要です。これを石盃と呼んでいますが,その場合,席中の茶碗
と同種のものや,徳利と同窯のものなどは避けるのが常識です。酒の進まぬ客に同数
の石盃を用意するのは,好ましいことではありません。寧ろ三つ乃至五つ位の盃を選
んで客に任せるとよいでしょう。茶事は,稽古で学んだ型通りを客に押し付けるもの
ではありません。客の要望や好みを理解して,略すべきは略し,融通無碍ユウヅウムゲの
働きをするのが茶事の面白さでもあります。客に己オノレの稽古の発表に立ち会わせるよ
うな茶事にならないよう,亭主は心することこそ大切です。
酒盗シュトウは,屡々それを取り回して後に,預徳利の酒を注いで,心許した連客で飲
み回されます。大型の酒盗などがこれに当てられ,連客一人一人が,亭主の愛玩アイガン
して止むことのないぐい呑を,また懇ろネンゴロに鑑賞するためです。
銚子は一般に丸形・角形・阿古陀アコダ形のものが広く用いられていますが,舟形・
七宝シッポウ形・竹節形など,種々の器形を型どった珍しいものも作られています。銚子
の蓋は,屡々香炉の蓋,茶器の蓋,香合の蓋などを利用し,それらの蓋に合わせて銚
子を作らせたものも多いです。陶磁器の銚子もあり,古染付・新渡シント染付・古九谷・
志野・織部・古清水・御菩薩ミゾロなどが知られています。
△金襴手キンランデ透彫スカシボリ盛盞瓶セイサンビン(高28.7p,胴幅16.9p 五島美術館):
盛盞瓶は,和名で仙盞瓶とも書かれます。「万宝マンポウ全書」に煎茶瓶センサピンとあり,
これが転訛したものでしょう。その形は回教国で使用される水注(又は酒注)から発
展したものですが,このように胴部に透かし彫りのあるもので完器は稀有ケウです。
△飛青磁トビセイジ徳利(高17.8p,底5.9p 五島美術館):元代龍泉窯で焼造され
た飛青磁で,濃い緑を帯びた青色に,大柄な鉄色の斑紋が周囲6ケ所に散らされてい
ます。底部高台の土見部分には,赤い鉄分による火色ヒイロが見られ,一層青磁色を引き
立てています。
△備前火襷ヒダスキ徳利(銘松風・村雨 高11.5p,口径3.0p 畠山記念館):桃山
時代,備前で焼造された徳利で,窯の火の当たり具合と,其処に掛けられた藁などの
跡が火襷となって景色を作っています。懐石に用いる陶器徳利は掌に納まる大きさの
ものが良いとされます。黄味を帯びた軟らかい土に火襷の赤色が鮮明に現れ,自然さ
と気品を保っていなければなりません。銘の松風と,村雨は,能にも取材された須磨
の浦に住む塩汲みの姉妹の名であり,在原行平アリハラノユキヒラとの悲恋の物語の主人公で
す。一方は明るく華やかに,また一方はもの静かな寂寥感セキリョウカンに満ちています。何
れも甲乙付け難い優れた姿と変化に富む備前徳利の名品です。なお,備前徳利では原
叟ゲンソウ銘「としわすれ(鴻池コウノイケ家伝来)」も著名です。
△朝鮮唐津徳利(高13.0p,口径3.5p 畠山記念館):唐津焼に白海鼠シロナマコ釉と
飴釉を掛け分けたものがあり,これを朝鮮唐津の名で呼んでいます。この徳利は小振
りで可愛いですが,その姿に気品があり端正で崩れていません。土見は褐色で鉄釉を
薄く引いた感じがしますが,元来鉄分の多い土を用いているからでしょう。唐津藩の
川内窯系の作品と考えられています。
懐石には,預徳利として2種又は3種程度の異なった種類のものが,石盃とともに
持ち出されますが,組合せは磁器と陶器など対称的なものが用いられ,2合以上入る
ような大型徳利を預徳利として使用します。また小振りのものを,これらに添えて持
ち出すのも一興です。
[次へ進んで下さい]