24c 茶道陶磁その1
 
香炉コウロ:仏教伝来とともにわが国に香木がもたらされ,神仏への「供香」が行われまし
 たが,貴族の間では招客に際し一場を清浄厳飾するために「空香」(空焚カラダキ)が行
 われるようになりました。時代の下降とともに「玩香」の風がみられ,香木に銘を付
 けて珍重しました。中でも東大寺に伝来します「蘭奢侍」は著名ですが,源氏物語の
 各段の名を付けて源氏香等が広く愛好されました。特に平安期に入ってからは着衣に
 香を焚きしめて個性を薫香に求める風習が上層階級間で一般化していきました。室町
 時代に到り茶湯の盛行とともに書院の飾りに欠かすことのできない重要な道具となり
 ました。
  桃山時代,名物香炉は茶室において,主客共に香を聞くことが行われ,詠歌と聞香
 と茶湯とは密接な繋がりを持っていました。
  また一方,仏具としての香炉は卓香炉ショクゴウロなどとも称され,足付のもので五具
 足,七具足などの一つとして欠かすことのできない存在でした。
  書院の飾りの香炉は「金之卓香炉」「青磁焼物卓香炉」が用いられました。「万宝
 全書」(元禄7年刊)には「金之卓香炉」が34種,「青磁焼物香炉」が19種,「釉香
 炉」が24種採り上げられています。また「遠州蔵帳」では44種,「古今名物類聚」で
 は34点となっています。
  また器形から釣香炉・柄香炉・毬香炉・鼎香炉・穂(火)舎ホヤ香炉があります。
 
  香炉の分類
 
 金属器 − 唐銅・金銅・古銅・鉄(金・銀象嵌)・金・銀
 陶磁器 − 唐物 − 青磁・白磁・染付・赤絵・呉須・金襴手・雲鶴青磁・三島・井戸
          ・堅手・祥瑞その他
      和物 − 瀬戸・織部・志野・唐津・薩摩・九谷・伊万里・備前・信楽・丹
          波・楽焼・京焼(仁清・乾山・粟田・清水・音羽・清閑寺・穎川
          ・木米・道八・永楽その他)
      その他 − 玉・七宝・蒔絵など
 
  なお香炉は,近来では用いられる例は少なく,追善の席において,遺影や画像の前
 に飾り,卓や盆に載せて扱います。共蓋のほかに銀や唐木の火舎ホヤが添えられます。
 
  △青磁千鳥香炉(高6.4p,口径9.1p 徳川美術館):円筒形の三つ足で底部中央
 に高台があって畳付きとなり,足が宙に浮いています。元宗祇が珍蔵し,今川氏を経
 て信長に渡りました。その後の伝説に因りますと秀吉の手に入り,盗賊石川五右衛門
 が忍び入ったとき,この香炉が鳴いていたとか。
  別説では細川幽斎が所持し,蒲生氏郷が拝見を乞うたとき,里村紹巴は幽斎の不機
 嫌な理由を,順徳院の「清見潟雲もなぎたる波の上に月の隈なるむら千鳥かな」の歌
 で示したといいます。また利休所持で,三つ足が不揃いであったのを,妻の宗恩が一
 分だけ切らせたところから千鳥の香炉の名が生まれた(洗心録)という伝説もありま
 す。
  明代製作の堆朱の台が附属し,後藤祐乗作と伝えられる千鳥の鈕ツマミが付いていま
 す。
  △宗慶黒楽向獅子香炉(高18.0p 滴翠美術館):宗慶は秀吉から天下一の称と,
 楽の金印・銀印を賜ったといわれる初期楽焼の陶工です。春屋宗園に利休画像(表千
 家蔵)の賛を求めた宗慶がこれに擬せられます。
  他に「とし六十田中 天下一宗慶(花押)文禄4年9月吉日」の銘記のある三彩獅
 子香炉や黒茶碗天狗(共に梅沢記念館蔵),薮内家蔵の黒茶碗などが現存します。勿
 論この獅子の原型は「紫銅向獅子香炉」(徳川美術館蔵)でしょう。
  △赤絵狗鈕香炉(高10.0p 根津美術館):名物呉須赤絵香炉です。蓋は三方に穴
 のあいた蓮弁紋透蓋で,甲に狗が後を振り向いた姿で表されています。狗の一部に金
 彩が残り嘉靖頃の金襴手で,景徳鎮窯のものと認められていますが,身の方は呉須赤
 絵赤玉紋の手で石碼窯のものと考えられます。小堀遠州から土井家に伝わりました。
  このような高台のある小型の香炉は香炉盆に載せて用いることになっています。
  △仁清作色絵雉子香炉(国宝 高18.0p,長47.6p,胴幅12.0p 石川県美術館)
 :野々村清右衛門,即ち仁清の陶芸を代表する装飾的な飾り用の色絵香炉です。雉子
 香炉にはこの他に銀彩のものが知られていますが,作風上可成り違ったイメージを持
 っています。
  この香炉は仁清の細工物を代表する優作で,頭部の力強い表現を,胴部のゆったり
 とした膨らみが支え,尾先を低くして,優美な感覚を巧みに表しています。黒の上に
 緑を掛け,細い金の線描で括った羽毛の表現は見事です。
  畳付きに「仁清」の幕印が押されていますが,この印は仁和寺宮から拝領したもの
 といわれています。前田家の注文によって作ったものと思われ,後に城下山川家に伝
 来しました。なお銀彩雉子香炉も同じく「仁清」幕印です。
  △仁清作菊紋共蓋香炉(高8.0p,胴径8.0p 香雪美術館):色絵聞香炉で,全面
 に赤の菊を意匠化して表し,余白に葉などを補った緻密な作品です。元来香道具の一
 つで,多分蒔絵香道具箱に一対入れられていたものでしょうと思われます。
  仁清の同型香炉には,松竹梅絵香炉,剣酢醤カタバミ草紋香炉などが知られています。
 共蓋のあるものは珍しいです。何れも象牙蓋を添えて,替茶器に用いられています。
  東福門院を始めとして,江戸時代初期の宮廷貴婦人達や,大名家の子女達の香道具
 の一つとして,もてはやされたのでしょう。
 
                       参考:保育社発行「茶道用語辞典」

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