24b 茶道陶磁その1
△染付辻堂香合(高6.6p,角4.8p 五島美術館):蓋の姿から辻堂の屋根を連想
しての名称で,型物染付香合中の筆頭といわれ,器形も大型です。型物香合は土型成
形のものや,轆轤ロクロでも同型のものが相当数焼造されたものをいいます。
この型物香合に関しては安政2年(1855)出版の「形物香合相撲」番付表に,唐物
香合を中心に染付81種,呉須16種,祥瑞18種,交趾63種,青磁29種,宋胡録2種が選
出され,東西に分けられています。勧進元,差添には呉須台牛を筆頭に紅毛・南蛮・
寧波ニンポウ染付が記されています。和物香合は行司に塗物,頭取に焼物の代表的なもの
が選ばれ,その他は世話人の部に入れられています。なおこの香合は東の交趾大亀に
対し,西の大関に採り上げられています。
△交趾台牛香合(高5.5p,長6.0p 北村美術館):四方入角の台に牛が浮出しで
表されていますので台牛の名があり,特に上手です。
△青磁桃香合(高5.5p,胴径11.3p 五島美術館):型物青磁香合は明代の焼造
で,桃形の中では最も大きいです。現存は2,3点に過ぎません。
△交趾黄鹿キジカ香合(高5.0p,胴径5.0p 野村美術館):身を丸めた鹿が蓋の甲
に黄釉で浮き出していますのでこの名があります。黄鹿とのみ記されていますので,
身蓋共黄のものを最上としますが,実際には黄と緑釉の方が美しいので珍重されてい
ます。この香合は「雲州蔵帳」に所蔵され,松平不昧の箱書があります。
番付表には「色絵」「惣黄」「大小」など細字の注が肩に書き込まれているものが
ありますが,これは同型の香合であっても注のあるものを特に尊重するという意味で
す。大亀の「色絵」とありますのは,単色のものや白檀塗のものよりも三彩のものを
優先するの意です。「惣黄」とは総黄のことで,全体が黄釉のものを第一とするとい
うことです。また「大小」とありますのは,その大小を問わないという意味です。
△祥瑞横瓜ヨコウリ香合(高4.5p,胴径5.2p 畠山記念館):甲に窓枠をしつらえ,
山水人物を描き,身の側面に詩が横書きされています。類品は極少です。
△祥瑞立瓜タチウリ香合(高6.1p,胴径4.9p 畠山記念館):遠州好み祥瑞香合の中
の一つです。他に横瓜・鳥差瓢箪・豆男・枕・豆獅子・筋兜などがあります。
△祥瑞蜜柑ミカン香合(高4.5p,胴径5.1p 藤田美術館):蜜柑香合は在銘祥瑞中の
王者とされ,蓋の葉の数が最も多い9枚葉を最高としています。これには9枚葉の紐
みがあり,蓋裏には「五良大甫 呉祥瑞造」の在銘があります。他にも5枚葉や3枚
葉の香合が知られていますが,図柄は一つ一つ異なっています。
在銘のものには口紅や胴紐の鉄砂掛けは見られませんが,「禄」「福」(二重枠)
「大明嘉靖年造」などの書入れのあるものにはこれがあります。祥瑞のコバルトは特
に美しく,これを全面に塗ったものに瑠璃雀香合があります。
祥瑞の呼び名はその銘款に由来しますが,紋様は唐子・鹿・鳥・舟・山水・幾何学
紋などいわゆる祥瑞紋が多いです。
△呉須赤絵菊兎香合(高6.5p,胴径9.1p 野村美術館):この香合は呉須赤絵の
香合としては誠に珍しいものです。器胎も美しく,菊形を表し,蓋の甲には兎の絵が
描かれた大型の香合で,松平不昧愛蔵の「雲州蔵帳」に所載された香合です。
呉須赤絵には赤絵四方入角や赤玉などがあり,中国南部の石碼辺りにあります民窯
で焼造されたもので,明代末のものと考えられています。紋様は染付一色のものと,
赤と緑の2色のものとがあり,生地は多少黒味を帯び,濁った感じのものが多いです。
藍呉須香合は濃茶の香合としても用いられますが,呉須赤絵の香合は薄茶用のもの
でしょう。
△和蘭陀オランダ白雁ハクガン香合(高11.3p,長9.0p 藤田美術館):和蘭陀香合はデ
ルフト窯の作品が中心となり,桃山期頃から近年に及ぶ輸入品で,注文品と転用した
ものとがあります。
白雁の香合は転用品であり,香料などの容器であったと思われます。番付表には勧
進元に加えられています優美な香合です。嘴と足の赤釉が強いアクセントをなし,首
輪が長い頭に締まりを与えています。
△ノンコウ台獅子ジシ香合(高4.0p,径5.5p):一文字の台に向獅子が乗っていま
す。黄釉で如何にも黄瀬戸風な感じが強いです。蓋裏に道入印が明確に押され,獅子
の彫刻も表情豊かで瀬戸の狗を想わせます。
△織部弾ハジキ桃形香合(高5.3p,胴径6.5p):力強い弾が蓋の両端を結んでいま
す。器形はハート型に近い桃形で,畳付は碁筍ゴケ底です。文様は蓋に亀甲と千鳥,身
にとくさが描かれ,中央を残した左右に緑釉が掛けられています。
△仁清作鴛鴦オシドリ香合(高5.2p,径6.0p 藤田美術館):仁清の香合中最も愛ら
しいものの一つです。鴛鴦香合は今一つ,大和文華館にも所蔵されていますが,器型
に多少の大小が見られます。仁清の彫塑チョウソ的な技法を如実に示すもので,鶴・鴨・
犬・兎などの名品が知られます中でも,この香合は一際優れています。
金森宗和の指導により,殿上人や女房連の茶湯に適わしい優美な好みの香合が数多
く作られましたが,彩色・造型ともに洗練された感覚は幕末の亜流のものとは格段の
差があります。
△乾山槍梅香合(高4.8p,径6.5p 藤田美術館):乾山焼槍梅香合は番付表の頭
取に採り上げられ,型物香合とされていますが,元来手作り風のものであり,一点一
点型も絵付も異なっています。蓋に弾の付いたものは比較的小型ですが,無いものは
肩と腰に面が取られた大型です。
絵付は尾形光琳の槍梅図を意匠化したものであり,鳴滝時代の作品と思われます。
乾山焼香合は書類も多いですが,緒方深省(初代乾山と呼ばれていますが「乾山」
は人物名ではなく窯名とするのが正しい)のものは極めて少ないです。
これには身の畳付に力強い乾山銘が見られます。
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