24 茶道陶磁その1
茶道陶磁その1
本稿は,保育社発行「茶道用語辞典TUV
」を参考にして,茶道に用いられる道具に焦
点を当て,その中で重要な役割を担う陶磁器
について採り上げてみました。 SYSOP
[う]
薄茶器ウスチャキ:薄茶を入れる容器の総称として薄器又は薄茶器,薄茶入などの名称があり
ます。材質は木地・漆器・象牙・竹・一閑張イッカンバリ・篭地カゴジ・金属・陶磁器・ガ
ラスなど多様ですが,主オモ茶器に対して補助的役割の替茶器が用いられることもあり
ます。この場合主茶器に棗ナツメ類を,替茶器に陶磁器を組合せて変化を持たせることが
行われています。
形状は棗・中次ナカツギ・頭切ズンギリ・雪吹フブキの4種にほぼ大別されますが,薄器六
器(雪吹・面中次・頭切・薬器・白粉解オシロイトキ・茶桶),薄器七種(尻張棗・大棗・
中棗・小棗・平棗・つぼつぼ棗・碁笥ゴケ棗)と称することもあります。
△祥瑞ションズイ鳥摘トリツマミ茶器(高6.4p,胴径4.1p 滴翠美術館):尻膨形シリフクラガタ
の薄茶器で,蓋は鳥摘みの美しい祥瑞在銘の優品です。胴に詩文を書き,「五良大輔
呉祥瑞造」と二行書きとしています。胴の紋様は上部が花菱,下部が網文です。白地
とコバルトの対比が鮮やかで,祥瑞茶器中最も著名なものとなっています。祥瑞茶器
では徳川美術館の阿古陀アコダ形茶器もコバルトの発色が美しいです。
[か]
菓子器
(1)菓子器の分類
1 食篭ジキロウ
ア 漆器 − 唐物・・・・・・堆朱ツイシュ・堆黒ツイコク・青貝・存星ゾンセイ・沈金チンキンその他
和物・・・・・・鎌倉彫・漆絵・蒔絵・螺鈿ラデン・根来ネゴロその他
好物・・・・・・茶匠好各種
イ 陶磁器 − 古清水(色絵)・楽焼
乾山ケンザン(色絵)・交趾コウチ
木米モクベイ(染付)・赤絵
ウ その他
(食篭は,明代初期頃盛んに輸入され,「君台観クンタイカン左右帳記」にもみえます
ように,違棚に飾られて食物,特に果実・野菜・木の実・餅など当時菓子と称
するものを入れました。)
2 銘々皿
ア 漆器 − 唐物盆・和物盆・茶匠好各種
イ 陶磁器 − 染付・赤絵・色絵・楽焼その他
ウ 硝子器・金属器 − 義山ギヤマン・南鐐ナンリョウその他
3 鉢類
ア 磁器 − 青磁・白磁・影青インチン・染付・赤絵・法花ホウホウ・祥瑞ションズイその他
イ 陶器 − 刷毛目・絵高麗・三島・御本・国焼各種
4 縁高フチダカ
真塗・溜塗タメヌリ・春慶塗・一閑張イッカンバリその他
5 干菓子器ヒガシキ
ア 漆器 − 唐物盆・・・・・・堆黄ツイオウ・堆朱ツイシュ・堆黒ツイコク・青貝・存星ゾンセイその
他
和物盆・・・・・・鎌倉彫・漆絵・蒔絵・根来ネゴロその他
茶匠好
イ 金属器 − 唐物盆・・・・・・南蛮砂張サハリ・南蛮モールその他
和物盆・・・・・・南鐐ナンリョウ・唐銅カラカネその他
ウ 陶磁器 − 染付・赤絵その他
(生菓子に漆器を用いたとき,干菓子を陶磁器に盛ることもあります。ただし,
押物・有平アリヘイは避け,半生のものが良いでしょう。)
(2)菓子について
室町末期から桃山時代にかけての「松屋会記」「津田宗達ソウタツ・宗及ソウキュウ他会
記」など屡々「菓子ノ畫」が床に掛けられています。幾種かの絵が,当時伝世し,
何れも趙昌チョウショウ筆又は牧谿モッケイ筆と伝え,「五種ノ菓子」「七種ノ菓子」と称
せられました。ほかに三種の菓子として瓜・枇杷・蓮根が記され,七種には「ヒ
シ(菱)」「アリノミ(梨)」「サクロ(柘榴)」「ユ(柚)」「モモ(桃)」
「フタウ(葡萄)」「ハス(蓮)」が描かれていたといいます。また茶事に用い
られた九種の菓子は,「カンヘウ(乾瓢)」「ヤウカン(羊羹)」「クモタコ(
蜘蛛蛸)」「モチ(餅)」「アマノリ(甘海苔)」「打クリ(打栗)」「ノシ(
熨斗鮑)」「小マンチウ(小饅頭)」「コブ(昆布)」であったといいます。
△仁阿弥ニンナミ雲錦鉢ウンキンノハチ(高7.4p,径22.3p MOA美術館):仁阿弥は,二代目
高橋道八ドウハチ(1783〜1855)のことで,松風亭・華中亭・法螺ホラ山人と称し,茶陶の
ほか人物・動物・貝類などの彫塑的な作品を得意とし,中国・朝鮮・安南などの古器
を模し,仁清・乾山などの京焼を写しながら道八様式を確立しました。特にこのよう
な雲錦,つまり桜・紅葉絵鉢は得意とするところで,乾山写しとはいえ,道八独自の
創作です。菓子鉢は元来懐石の深鉢を利用したものであることはいうまでもありませ
んが,食篭を用いるべきところに,蓋のない鉢で間に合わせたのが菓子鉢です。古来
書院茶では塗物の食篭が用いられ,草庵茶では銘々皿が行われたと思われますが,や
がてこれを一つの鉢に盛って客前に出す風習が生まれました。大寄せの替鉢は同種の
ものを用いる方が妥当と考えられ,異種の組合せは好ましいものではありません。
△乾山ケンザン龍田川絵皿(高2.8p,径18.0p 逸翁美術館):元来向付に作られた
ものですが,銘々皿にも利用されます。五客一組として遺存しますが,いかにも乾山
焼らしい大胆な紅葉と水の意匠です。赤・緑・黄の艶やかな色の組合せと,渦巻く波
や砕け散る波頭は,光琳絵図に因るものでしょう。
草庵茶では一客一客に銘々皿を用い,菓子を盛って持ち出すのが本来の作法です。
人数によっては補いの皿が用いられることもありますが,大寄せ茶会では鉢類に盛っ
て出すことが一般化しています。
濃茶では縁高フチダカを用いて菓子を盛り,席中に運ぶ方法が採られています。真塗・
溜塗・春慶塗・へぎ目一閑張イッカンバリの隅切り(五段重)が広く使われ,利休好み,織
部好み,松花堂好みなどが知られています。
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