07c 生素地の装飾その1
 
 6 墨流し
 例えば白土と赤土とを練り合わせたときに生ずる縞文様を装飾として捉えたものを練
上手ネリアゲテと言いますが,こうした表現を化粧によって行うものが墨流しです。
 白化粧土の中に鉄分の多い赤どべ(赤化粧泥)を入れて,揺さぶったり,掻き混ぜた
りすると流泥文が生まれ,それが墨汁を流したように見えるところから墨流しと呼びま
す。この技法には流泥文様を素地に浸して写す方法と,素地の上でこうした化粧を行う
方法とがあります。
 (1) 墨流しの泥
  @黒化粧土の調合例(1)
 原料     (1)   (2)
 鬼板土   80〜50  −
 大正黒   20〜50  − ※黒絵の具
 信楽土    −    60
 下等呉州   −   40
 酸化鉄    −   20
 
  A黒化粧土の調合例(2)
 原料     (1)   (2)
 着色材    50      70 ※着色材は紅柄50,酸化クロム50の調合物を1200〜1300
 白化粧土   50      30  ℃の高温度で焼いて粉砕したもの
 
 伝統の墨流しは白と黒の化粧土によるものですが,他の色化粧泥によるカラフルなも
のも試してみて下さい。
 
 (2) 流し方
 一つ目の方法は,白化粧泥(又は一方の化粧泥)を平たい容器に入れ,黒化粧泥(又
は他方の化粧泥)を"ぽつぽつ"と滴らして容器ごと揺す振ると,二つの化粧泥が互いに
混ざり合って流泥文様を作ります。これに素地を浸して写し取る方法です。
 二つ目の方法は,少し濃いめの白化粧泥(又は一方の化粧泥)を素地に浸し掛け又は
流し掛けしておいて,その化粧が乾かないうちにゴムスポイトなどで黒化粧泥(又は他
方の化粧泥)を滴して,素早く素地ごと揺す振って流泥文を出します。
 三つ目の方法は,白化粧泥(又は一方の化粧泥)を素地に浸し掛け又は流し掛けして
おいて,その上に黒化粧泥(又は他方の化粧泥)を手箒などで振り掛けて,それを鳥の
羽根で撫でると流泥文が出ます。
 
 7 刷毛目
 "さーっ"と一刷毛,素地に白化粧を施したものを刷毛目と言います。朝鮮李朝時代に,
鉄分を含んだ粗雑な素地を白磁器らしく見せるために,刷毛で白化粧をしたものです。
白化粧は生素地に施すため,化粧泥の中にどっぷりと素地を浸し掛けすると,素地に水
気が廻って壊れやすいので,刷毛による方法が採られたのでしょう。
 このような刷毛筋には,刷毛目,筋刷毛目,稲刷毛目などの装飾技法があり,また刷
毛目と印花,線彫りとを組合せものを三島刷毛目とか暦手コヨミテと言います。日本の茶人
に好まれるこうした刷毛目茶碗の素地色は,青味と赤味のもの,また鼠色のものがあり,
その上に白い粉が吹いたような化粧が施されています。
 刷毛目は,素地の表面の水気が引いた頃合いに,稲穂の先("みご"という)を束ねて
刷毛にしたものに白化粧土をたっぷりと付けて,一気に塗り付けます。乾燥後,素焼き
して木灰の透明釉(土灰釉)を施釉して焼成します。
 伝統的な朝鮮写しの刷毛目の素地は,鉄分4%位含んだ粗陶器質のものです。窯の中で
は,還元焼成のときは青味,やや還元気味のときは鼠色,酸化焼成のときは赤味を帯び
ます。
 なお,刷毛目の素地色として賞揚されるのは鼠色です。これは信楽粘土(白色の陶器
質粘土)に黄土を2割位混ぜた赤合わせの素地に白刷毛目をし,土灰の透明釉を薄く施
してSK8〜9(1230℃前後)でやや還元気味に焼成すると得られます。
 
 8 粉引・雨漏手・御本手
 (1) 粉引コヒキ
 粉引は朝鮮高麗時代の技法の一つで,粗せっ器質素地(少し鉄分を含んだあまり焼け
締まらない素地)に白化粧泥(カオリンを元とした化粧土)を"どっぷり"と付けて,乾
燥後素焼きして,その上に灰透明釉を施し,弱還元で焼成したものです。一見白い粉が
吹いたような趣のあるところから,粉引コヒキ又は粉吹コブキともいわれ,日本では茶の湯の
器として好まれています。
 
 (2) 雨漏手
 前記と同じ系統の朝鮮茶碗に雨漏手アマモリデがあります。土蔵の白壁に雨水が滲み込ん
だような色感とテクスチャー(地膚)を持つものです。土味が柔らかで粉引とよく似た
ものと,堅手カタデといってよく焼け締まったせっ器質の素地に雨漏りのような"しみ"の
出たものがあります。この"しみ"の色は大体鼠色ですが,中には紫色がかったものもあ
ります。素地から出る"しみ"色は燐酸鉄ともいわれます。白化粧はあまり濃くせず,ま
た施釉時のピンホールはそのままにすると"しみ"が出やすいようです。
 
 (3) 御本手ゴホンテというのは一般に化粧を施さないものですが,カオリン質の化粧をす
ることもあります。素焼きしたものに化粧をするときは,その前に作品を軽く水で湿ら
せてから化粧掛けします。この場合,生素地に化粧したものも,素焼きに化粧したもの
も,化粧したらもう一度素焼きして土灰透明釉を薄く施します。
 
 9 泥打ち・砂打ち
 福岡県小石原焼や大分県の小鹿田オンダの泥刷毛目とか打刷毛目というものは,泥打ち
に属するものです。生素地を轆轤に置いて,回しながら刷毛で白とべを細かく波打つよ
うに叩き付けて化粧したものです。このときの刷毛は障子張りの糊刷毛を用います。轆
轤の回転に従って,打ち付ける刷毛目が一種の蛇の目のような文様を作ります。
 上野焼アガノヤキの伝統技法に黄叩きキタタキという,棕櫚シュロ刷毛に白化粧泥を付け,鉄分の
多い素地に打ち付ける化粧法があります。これに飴釉のような透明の,淡い色の鉄釉を
施したものです。
 砂打ちというのは,化粧泥を生素地に施しておいて,乾かないうちに砂を振り掛けた
もので,化粧泥に砂が付着して一つのテクスチャーを出します。この砂は細かい長石粒
か,蛙目粘土を水簸した残渣(のこりかす)です。
 また砂打ち技法とは違う,焼き上げた素地面に砂を吹き付けて,素地面を磨耗させて
肌合いを変化させたり,艶消し状にする方法もあります。
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