06 釉薬とは
釉薬とは
参考:共立出版株式会社発行「陶磁器/楽焼から本焼まで」
同社発行「陶磁器釉薬」
1 釉薬の目的
釉薬ユウヤクの目的は,素地の表面を覆って光沢を与え,又は艶を消すなどの美感的意義
と,表面を平滑にして汚れを防ぎ吸水性をなくして,水や化学的薬品に対する抵抗性を
増し,機械的強さを一層大きくするなどの実用的意義があります。
なおさらに,美的効果を多くするために種々の装飾が施されます。例えば素地に彫刻
するとか,釉掛けする前に顔料で描画その他の彩色を施す(下絵又は染付)とか,釉上
に色釉で彩色する(上絵付)など,その他にも種々の装飾がなされます。
2 素地と釉
素地に釉を掛けて焼きますと,釉は溶けて素地に密着し,表面にガラス状の薄い膜が
できます。温度が下がるに従って,次第に固まって収縮を伴います。素地の膨張又は収
縮と釉薬のそれとが一致しませんと,嵌入ガンニュウ(貫入・亀裂のこと)を生じたり,剥
がれたりします。すなわち釉の収縮が素地のそれより大きいと嵌入が生じ,小さいと剥
がれることになります。磁器では素地が透明性になるまで焼かれるので,釉の性質に相
当似てくるためほとんどこのような欠点は生じませんが,陶器では素地を焼締めた程度
ですので,気孔が多く釉との性質の相違が甚だしいため嵌入を生ずる場合が多いです。
通常,焼きものの嵌入は欠点の一つですが,薩摩焼,粟田焼,相馬焼などはその欠点
を装飾化した焼きものです。また,釉掛け後に乾燥させてひび割れさせ,焼いて溶かす
と鮫肌サメハダ状になる鮫肌釉や,さらに溶かして柚子肌ユズハダ状になる柚子肌釉なども釉
薬の欠点を装飾化したもので,茶碗や鉢,花器などに好んで用いられています。
3 温度と釉
溶ける温度により軟質釉と硬質釉に大別されます。軟質釉は陶器釉で範囲も広く,特
に低温で溶ける鉛分の多い釉を鉛釉ナマリグスリといい,粗陶器,有釉土器,楽焼の類に施さ
れます。
低温で溶ける鉛釉の一部をアルカリ(カリやソーダ)や石灰などで順次置き換えてい
きますと,溶ける温度は次第に高くなるものの,釉としての安定性が出てきます。
4 いろいろな釉
不透明釉は,釉の種類によって亜砒酸,アンチモニー,錫,亜鉛,チタン,骨灰の類
を配合して不透明したもので,灰釉ではワラ灰や籾灰を使います。ほとんど長石を釉に
した志野釉なども,不透明釉の一種です。
色釉は,総ての釉に無機色素となるコバルト,クロム,鉄,ニッケル,銅,マンガン
の類や,無機顔料の適量を加えて着色した釉で,青磁釉や辰砂釉なども色釉の一種です。
上絵付用絵具も低温で溶ける色釉の一種です。
5 釉薬の定義
以上のとおり,釉薬とは,陶磁器素地の表面に施したガラスのように溶かした薄いケ
イ酸塩混合物で,ほぼ均質なものです。その物理的及び化学的性質は,ガラスと同様で
硬く,強酸,強アルカリ以外には不溶であるか,溶けても僅かです。ただしフッ酸(フ
ッ化水素)には侵されます。気体や液体は通さない,ガラスのように一定の組成を有す
る化学的な化合物ではなく,複雑な混合物です。
釉薬には多少の差はあるが光沢があります。光沢の強い(よく溶けた)ものは光線を
強く反射します。マット釉(艶消し釉)は反射が弱く,この中間的の光沢をもつ釉も多
いです。肉眼的に結晶がないということが釉薬の特徴であり,微結晶によるマット釉や
結晶釉などは例外です。
釉薬には,無色釉と着色釉(色釉イログスリ),透明釉と半透明釉及び不透明釉がありま
す。
外観はどうであろうと,釉薬又はこれに準じた被膜を粘土質製品に使用するのは,次
のうちいずれか一つ,又は両方を満足させるためです。
@製品を液体及び気体に対して不透過性にすると同時に,素地の強さを増す。
A製品の欠点を完全に隠して美術的に魅力ある被膜(釉相)を形成し,さらに装飾的
効果を出す。
などです。
[次へ進む] [バック]