05 やきものはあなたの手で〈楽焼き〉
やきものはあなたの手で〈楽焼き〉
〈楽焼きのこと〉
楽焼きという形式の軟陶が焼き始められたのは室町時代末期で,
長次郎の創始といわれています。茶の湯の道具として作られ,なか
でも茶碗に重点が置かれました。成形はすべて手捻りテビネリであり,
従って作者の個性がよく表れています。粘土は京都の土でしたが,
これはあまり火度の高い方ではありません。楽焼きには,かえって
その方が適しているのです。
釉薬ユウヤクは鉛を媒溶剤とし,800℃前後で溶ける低火度釉です。楽
焼きは技法が優しく,また規格にとらわれず,誰にでも容易に親し
むことができ,その上作者の個性も発揮できますので,初心者のや
きものづくりは楽焼きから始めるのがよいでしょう。
楽焼き用の粘土は,本焼きのものと異なって,乾燥してしまえば
ほとんど傷の心配がありません。ただし急熱急冷に耐えるものでな
ければなりません。適当な粘土が入手できないときは,市販の信楽
シガラキ粘土などでもよく,購入にあたっては「楽焼き用粘土」と指定
して下さい。
〈成形〉
楽焼きの場合の成形は,本焼きと同じですが,文様などを試みま
すと一層楽焼きが楽しく,そして変化のあるものに仕上がります。
〈素焼き〉
素焼きは,本焼きのときよりも温度を高め(800℃以上)にした方
がよいでしょう。
〈絵付け〉
楽焼きは普通,酸化焼成しますので,いろいろな色をだすことが
できます。多種類の下絵の具が市販されていますので,慣れない方
は市販のもので十分でしょう。市販の下絵の具は細かく摺スってあり
ますが,使用するときは乳鉢ニュウバチでよく摺ってから使って下さい。
まず始めに粉摺りをしてから,少量ずつ水を入れ,粘着剤として「
ふのり」をよく煮て布で漉コしたものを少量入れます。ふのりがあま
り多過ぎますと,描いた絵の部分に釉薬がつかないときがあります。
なお,絵画の絵の具ようにいろいろの色を混ぜ合わせますと,焼き
上がりの色が濁って汚くなります。また,下絵の具は沈殿チンデンしや
すいので,ときどき掻き混ぜて下さい。
〈釉薬ユウヤク〉
基礎釉は,専門店では調合したものが沢山ありますが,強弱など
自分の好みに調合したいときは,原料を購入してみるのもよいでし
ょう。釉薬の原料は,すべて粉末のものとして販売されています。
原料は唐の土,白玉,日の岡(珪石ケイセキ)です。※印は調合の参
考例です。
唐の土:唐の土は炭酸鉛及び水酸化鉛の化合物で,白色の粉末
です。
※唐の土を多く配合しますと溶けやすくなり,弱融となりま
す。
白玉:白玉とは硝子ガラスの粉末で,焼き硼砂ホウサ,珪石,長石,
鉛丹エンタンなどを調合して作ったものです。
※白玉の配合が多ければ光沢を増します。
日の岡:珪石と同質のもので,耐火度が強く,釉薬の溶融度を
高くするときに用います。
※日の岡を増しますと強釉になります。
基礎釉調合例(750〜900℃)
唐の土 80 唐の土 65 唐の土 50
弱釉 白 玉 10 中釉 白 玉 25 強釉 白 玉 40
日の岡 10 日の岡 10 日の岡 10
色釉は,基礎釉の中に,酸化金属又は下絵の具を混入することに
よって作ることができます。基礎釉100に対して,それぞれ次の割合
で加えます。
酸化鉄(紅柄) 5 〜10 % (茶色系)
酸化コバルト 0.5〜 1.0% (青〜ルリ色)
二酸化マンガン 2 〜 5 % (小豆色)
酸化クロム 0.5〜 2 % (緑色)
酸化銅 3 〜 5 % (青緑色)
黒釉の場合は,次を参考にして下さい。なお,黒釉にはマンガン,
コバルト,クロム,銅などを少量加えますと,安定したよい「黒」
が得られます。
基礎釉 100
二酸化マンガン 3.5
酸化コバルト 1.5
酸化鉄(紅柄) 2.5
酸化クロム 1.0
赤釉は,赤土の化粧掛けによって独特の赤色を出したものです。
赤化粧土は,生素地に掛けて素焼きをし,釉掛けをします。化粧土
に鉄分が多いですと,茶色,飴色になります。化粧土は赤色の粘土
や黄土などで,これに酸化鉄を少量入れて,好みの赤色にしていき
ます。
〈釉掛けユウガケ〉
釉薬を調整してよく摺り合わせ,粘着剤としてふのりを適量加え
ます。これは乾燥してから釉薬が剥げないようにするためです。
次に素焼きの破片を釉薬の中に浸し,釉薬の濃さを視ます。篦ヘラ
などの先で表面を切り,掛かった釉薬の厚さを視ます。大体葉書1
枚半の厚さがあればよいでしょう。1〜2回焼いてみればすぐ見当
がつきます。
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