03a やきものはあなたの手で〈やきもののできるまで〉
 
   〈釉薬〉
   
    釉薬ユウヤク(うわぐすり)は単に釉ユウ(くすり)ともいわれ,一般
   にはうわぐすりと称しています。釉掛けの目的は,汚れを防いだり,
   吸水性をなくしたりする実用性と,さらに美感を増す装飾性とを兼
   ね備えています。
    釉薬は,器物に掛けて焼きますと,溶けて素地に密着し,表面に
   ガラス状の薄い膜ができます。温度が下がると次第に固まって収縮
   を伴います。釉薬も素地と同じように珪酸に塩基性の物質が熱の中
   で作用して,素地のときよりさらにガラス状のものになるわけです。
    塩基性の主な物質は,次のとおりです。
     酸化ナトリウム  (ソーダ) Na2O
     酸化カリウム   (カリ)  K2O
     酸化カルシウム  (石灰)  CaO
     酸化マグネシウム (苦土)  MgO
     酸化鉛            PbO
     酸化亜鉛           ZnO
     酸化バリウム         BaO
     酸化マンガン         MnO
     このほかに中性の酸化物として,ほう酸H3BO3,はん土Al2
     O3(アルミナ)があります。
    釉薬も焼成温度の範囲が極めて広く,楽焼きなどに使う800℃位で
   溶けるものから,高いものは高火度磁器釉の1500℃位で溶けるもの
   までにわたり,同じ温度で溶ける釉薬でも,製品や用途によって組
   成が変わってきます。
    使う原料も,作者によってそれぞれ選択されます。珪酸を含んで
   いる石又は土に植物性の灰を混ぜ合わせたものが釉薬で,黄瀬戸な
   どはこの種のものです。これを灰ぐすりといいますが,燃料である
   木の灰が焼成中に器物に付着し,素地の珪酸と化合して一種の釉薬
   となった自然釉と呼ばれるものが灰ぐすりの道を拓いたものと考え
   られます。草木の灰には種類により違いはありますが,約30%前後
   の石灰分と少量のマグネシャ,アルカリ,マンガン,鉄などを含ん
   でいますので,高火度釉の融剤として使われてきました。木の種類
   も柞イス,松,樫カシ,楢ナラ,欅ケヤキ,栗皮,椿ツバキなど各種にわたり,
   また雑木の混合灰を土灰と呼びます。珪酸分の多い藁ワラ灰や籾モミ灰
   も多く使われます。灰釉ハイグスリを施す磁器など白いやきものには,
   比較的鉄分の少ない柞イス灰が融剤として使われてきました。栗皮灰
   などもこの種に属しています。反対に鉄分が比較的多い土灰や松,
   樫などの灰は,青磁や黄瀬戸系の釉薬に使われます。釉薬をその使
   用した原料により長石釉,石灰釉,灰釉,食塩釉,また,焼き上が
   りの外観によって透明釉,不透明釉,艶消し釉,色釉,結晶釉,亀
   裂釉などと呼びます。
    やきものの発色は,主として金属の酸化物によって得られます。
   釉薬の組成が多様であるに加えて,焼く温度や釉薬の溶け具合,焼
   き方が酸化か還元か,またその程度などを考え合わせますと非常に
   複雑になってきます。同じ呈色剤を使っても異なる色になるときが
   多く,特に銅,鉄,クロムなどを呈色剤として用いるときには,そ
   の添加剤,焼成中の酸化,還元の相違によって大きく変わってきま
   す。
    普通使われる主な酸化金属と呈色との関係を説明しますと,次の
   とおりです。
   △鉄で出る色:青,緑(還元),黄,赤,褐色,黒(酸化)
    鉄原料には紅柄ベンガラ(酸化第二鉄)を多く使いますが,土石や
   草木にはほとんど鉄分が含まれています。鉄分の多く含む天然の土
   石には,鬼板,黒浜,来待石,水打ち粘土,黄土,赤粉などがあり
   ます。古陶や地方の民芸陶器などは,鉄による色釉が多く使われて
   います。鉄分が多くなりますと,飴色,柿赤色,褐色からいろいろ
   の天目系の色調になります。鉄はまた赤絵呉須として顔料にも多く
   使われ,古代彩色土器の文様などにも多くみられます。
   △銅で出る色:青緑(酸化),赤,辰砂シンシャ(還元)
    銅を3〜5%ほど釉薬に混ぜて酸化焼成しますと,青緑系になり
   ます。織部釉の青緑も酸化焼成によるものです。辰砂(深紅色)は
   還元焼成して銅が第一酸化銅になったときの色です。
   △コバルトで出る色:緑,赤,ピンク,黄,褐色(酸化)
    釉薬に酸化クロムを少量加えて出る代表的な色は緑です。ただ,
   釉薬の原料配合によって,可成り出る色の色調が変わってきます。
   クロムピンクと呼ぶ深紅色の色釉にもなりますし,クロムと鉄を適
   量配合しますと茶褐色にもなります。
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