02a やきものはあなたの手で〈やきものとは〉
 
   〈やきものの味わい〉
   
    やきものは鑑賞だけを目的とした,いわゆる純粋美術てはなく,
   機能性を持った工芸品です。ですからやきものは形や色が美しけれ
   ばいいというだけでなく,何に用いられたか,どのようにつくられ
   たかということも必要になってきます。このように,やきものの味
   わいはむしろ潜在的なものではないでしょうか。感触,手触りとい
   ったものも,やきものを味わう上で大切なのです。
    やきものの見所は形や模様,釉薬の調子あるいは土味,作行きと
   いった点にあると思います。使いやすい形,それが自ずから美しい
   形を産むのです。勿論その時代の感覚も必要です。形は線で表現さ
   れます。滑らかな線,リズム感のある線,バランスのとれた線など
   いろいろあり,形を人間の姿にたとえて,上から口,首,肩,胴,
   腰,足(高台)と呼んでいます。模様もその形に合ったもの,形の
   面に適切な量を持っていて,勿論描かれたものが美しく発色してい
   なければなりません。釉薬は種類が多く,その味は窯により,時代
   により様々です。同じ色調のものでも,石灰を使うか藁ワラ灰,土灰
   を使うかでそれぞれ特色が現れます。さらにそれが窯の焼き方,燃
   料,時間,酸化や還元炎などによって変化します。そこにやきもの
   の面白さや味わいがあるといえます。釉薬の掛かっていない高台の
   土味は,炎によって面白く火色を受け,それを鑑賞します。それが
   瀬戸の土であり,九州の土であり,あるいは中国,朝鮮のものであ
   るところに趣があり,やきものの地方性が出てくるわけです。やき
   ものづくりで最も苦心するのは,この土味の出ている高台づくりで
   す。高台づくりには,作者の力量が現れるといわれますが,その器
   物に対して程良い大きさ,高さ,あるいは力強さや気品といったも
   のも必要ですし,また見所でもあるわけです。
    さて,8世紀に入り極めて特筆すべき現象がみられました。中国
   から唐三彩が輸入され,その影響を受けて奈良三彩,二彩及び緑釉
   陶器など新しい彩釉陶器が生まれたことです。
   △奈良三彩:白,緑,茶(赤から黄に至る)の3種類の釉を使って
   おり,鉛を媒溶材とした低火度(800〜900℃)の釉です。緑は銅,
   茶は鉄の呈色で,2色を使ったものを二彩といいます。鉄分の少な
   い良質の粘土を使い,銅釉や鉄釉を散らし掛けにし,上に透明釉を
   掛けて焼き上げますと,白地の上に明るい緑や黄褐色が散らばった
   鮮やかな三彩陶が現れます。奈良三彩は唐三彩に比べて,配色など
   も日本の味を加えた,優しく穏やかな感じがします。
    彩釉陶は短い期間で姿を消し,やがて平安の人々は自然釉のでき
   やすい焼成方法や人為的に灰釉を施して,器面を飴アメ色,ときに緑
   褐色の釉で被う新しい技術を発見しました。
    ロクロの使用も一般化され,前よりも増産が可能となり,この平
   安時代に進歩を遂げた灰釉陶は,後の鎌倉,室町時代へと展開され
   ていきます。
   △秋草壷:壷の全体にわたって秋草文を彫り上げ,平安期に常滑トコ
   ナメで焼かれたものといわれています。肩から口づくりにかけての逞
   しい作行きは,力感と量感に溢れています。灰白色をした砂混じり
   のざんぐりした土で,全面が暗褐色に焦げ,肩の部分には焼成中灰
   が掛かってできたオリーブ色の自然釉が厚く掛かっています。数カ
   所胴に流れ,一層魅力を増しています。胴に彫られた風に靡ナビく三
   株の芒ススキの線は,生き生きとして美しく感じられます。
    奈良時代に陶器の芽生えはありましたが,新しい展開はみられず,
   13世紀末の鎌倉後期に至って,いわば本格的な陶器である古瀬戸陶
   が出現しました。これは,加藤四郎左衛門景正が,道元禅師に従っ
   て中国に渡り,作陶の技術を学んで帰り,瀬戸で焼成に成功したと
   いわれています。
   △古瀬戸:瀬戸に豊富にある,耐火度が強く可塑性のある良質の粘
   土を使っています。仕上げは紐ヒモづくりとロクロ仕上げがあり,小
   さいものはほとんどロクロでつくり,大きいものは紐でつくってさ
   らに外側や口をロクロで仕上げてあります。釉は木灰が主原料です
   が,鉄分が多く,焼成が酸化に傾くときは飴色や褐色になり,還元
   のときは黄緑色になります。
    黄緑,朽葉色,飴色の釉が溶けて,濃淡様々な模様をつくってい
   て,いかにも暖かい感じがします。さらに箆ヘラで葉や唐草の模様を
   伸び伸びと描いてあったり,また型を押して模様をつけたりもして
   あります。
    張りのある胴の上に口を開いた壷や,強い肩の上に,小さな引き
   締まった口の付いた壷,丸い胴の上に長い首がつき口が開いた花器
   など形は,生き生きとして個性的です。また中国の天目茶碗テンモクチャ
   ワンを写した黒釉や飴釉の天目茶碗もつくられております。茶入など
   も,後に一国一城の価値を持つほどに珍重されたものもあります。
    鎌倉時代以降焼き続けられた6カ所の陶器の生産地を指して六古
   窯といいます。瀬戸,常滑,越前(織田),信楽,丹波(立杭),
   備前(伊部)の六つの窯場です。平安朝まで全国的に分散していた
   窯場の多くは,鎌倉期に至るとほとんど生産を止め,これらの6カ
   所の窯で集中的に生産されるようになりました。つまり良質の陶土
   があり,伝統もあり交通の便のよいところだったわけです。瀬戸を
   除く他の五つの窯では,無釉のいわば焼き締め陶器を焼いていまし
   た。これは各地でつくられていた須恵器がさらに発達し,焼き締め
   陶器となって現れてきたわけで,その後長い間焼き続けられ,現在
   でもなお日本を代表するやきものの一つです。当時必要であったも
   のは,大きな水甕カメ,貯蔵用壷,大鉢や擂鉢スリバチなどであり,大き
   なものを長く使うためには丈夫につくる必要があったわけです。
    従って良質の土を使い,紐づくりで成形し,高い火度で長時間焼
   き続けて丈夫なものをつくり出しました。
   △常滑:古常滑を代表するものは大きな甕カメですが,鉄分の多い土
   を固く焼き締めてつくったこの甕には,弾力性が感じられます。肩
   には美しい茶褐色の自然釉が厚く掛かり,胴に幾筋か流れています。
   肩が張り,胴は締まり,口辺は二重に折返されて力強い感じです。
   いわば土そのもの,火そのものに美の運命を託したものといえます。
   △信楽:誠に自然児そのままで荒々しく,枯れた感じの趣の深いや
   きものです。日本のやきもののうちで,特に親しみ深い日本らしい
   感じのするものです。種壷,甕,擂鉢などの素朴な雑器類が多く,
   土は灰白色の固い半磁質で,粗い長石粒を沢山咬カんでいます。肩部
   に桧垣ヒガキ模様の刻線が巡らされているのも特徴の一つです。肩に
   は灰が掛かり,溶けて美しい自然釉となって流れています。素朴で
   重厚な作行きが感じられます。これらの壷は,紐状にした土を巻き
   ながら積み上げてゆくわけですが,信楽の粗い掘りっぱなしの土で
   は,張った形をつくるのは特に難しいものです。大きな壷は2段,
   3段に分けてつくられます。
   △備前:土は田の土を混ぜ合わせた粘り気の強いもので,器の形は
   口辺が丸く折り返されたいわゆる玉縁です。また鎌倉時代のものは
   胴部に比して口が小さいのも特徴です。後に偶然から火襷ヒダスキとい
   う技法を生み出しています。これは窯詰めの際に大きな品物の中に
   小さなものを入れて焼きますが,くっ付きを防ぐために藁ワラを巻い
   て入れました。この藁の成分と土との変化で,藁のところだけ赤く
   なったわけです。また水を好むやきものでもあり,花生ハナイケなどで
   も水を含みますと生き生きしてきます。徳利も酒を含みますと酔っ
   たように良い色になります。
   △丹波:京都に近い丹波立杭の焼き締め陶は,全般的に備前のそれ
   とよく似ていますが,器形はより堂々として整い,土も滑らかです。
   △伊賀:伊賀を焼いた三重県の丸柱及び槙山は,峠一つで信楽と接
   し,元々区別のつかないところです。土は信楽と同じく灰白色の固
   い半磁質ですが,ねっとりと細かく,信楽ほど長石粒を咬んでいま
   せん。焼いて焼き抜いた強い激しい感じがします。焼成中自然に生
   じた焦げ,自然釉の美しさ,器形作行きの変化,強さなどの魅力は,
   古木の幹や岩をみるような感じもします。花生や水指ミズサシは珍重さ
   れています。
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