62a 心を詠める和歌
 
△愛メヅル・メデ・ハシキ
はしきやし相はぬ子ゆえに徒イタヅラに この川の瀬に裳のすそぬれぬ
                        (萬葉集 十一古今相聞往来歌)
 
はなぐはしさくらのめでことめでは はやくはめでずわがめづるこら
                            (日本書紀 十三允恭)
 
父母を みればたふとし 妻子メコみれば めぐしうつくし よのなかは かくぞことわ
り(下略)(萬葉集 五雑歌)
 
△恋
恋せずば人はこゝろもなからまし 物のあはれは是よりぞしる(倭訓栞 前編九古)
 
やちほこの かみのみことは やしまくに つままぎかねて とほとほし こしのくに
に さかしめを ありときかして くはしめを ありときこして さよばひに ありた
たし よばひに ありかよはせ たちがをも いまだとかずて おすひをも いまだと
かねば をとめの なすやいたどを おそぶらひ わがたたせれば ひこづらひ わが
たたせれば あをやまに ぬゑはなき さぬつとり きゞしはとよむ にはつとり か
けはなく うれたくも なくなるときか このとりも うちやめこせね いしたふや 
あまはせつかひ ことの かたりごとも こをば(古事記 上 八千矛神)
やちほこの かみのみこと ぬえくさの めにしあれば わがこころ うらすのとりぞ
いまこそは ちどりにあらめ のちは なとりにあらむを いのちは なしせたまひそ
いしたふや あまはせづかひ ことの かたりごとも こらば あをやまに ひがかく
らば ぬばたまの よはいでなむ あさひの ゑみさかえきて たくづぬの しろきた
ゞむき あわゆきの わかやるむねを そたたき たたきまながり またまで たまで
さしまき ももながに いはなさむを あやになこひきこし やちほこの かみのみこ
と ことの かたりごとも こをば(同 沼河日売)
 
わがせこがくべきよひなりささがにの くものおこなひこよひしるしも
                       (日本書紀 十三允恭 衣通郎姫)
 
やしまくに つままきかねて はるひの かすがのくにに くはしめを ありとききて
よろしめを ありとききて まきさく ひのいたどを をしひらき われいりまし あ
ととり つまとりして まくらとり つまとりして いもがてを われにまかしめ わ
がてをば いもにまかしめ まさきつら たたきあさはり ししくしろ うまいねしと
に にはつとり かけはなくなり ぬつとりきぎし はとよむ はしけくも いまだい
はずて あけにけりわぎも
こもりくの はつせのかはゆ ながれくる たけの いくみたけ よたけ もとべをば
ことにつくり すゑべをば ふえにつぐり ふきなす みもろがうへに のぼりたち 
わがみせば つぬさはふ いはれのみけの みなしたふ うをもうへに ててなげく 
やすみしし わがおほぎみの おませるささらの みおびの むすびたれたれやしひと
も うへにでてなげく(日本書紀 十七継体)
 
遊士ミヤビヲと吾ワレは聞けるを屋戸ヤドかさず 吾をかへせりおその風流士ミヤビヲ
                         (萬葉集 二相聞 石川女郎)
 
遠嬬トホヅマの ここにあらねば 玉桙の 道をたとほみ 思ふ空 安けくなくに 嘆くそ
ら 安からぬものを み空ゆく 雲にもがもな 高く飛ぶ 鳥にもがもな 明日ゆきて
妹に言コト問ひ 吾が為に 妹も事無く 妹が為 吾も事無く 今も見るごと たくひて
もがも
反歌
敷細シキタヘの手枕タマクラまかずへだて置き 年ぞ経にける 相はぬ念へば
                          (萬葉集 四相聞 安貴王)
 
葦屋アシノヤの 菟名負ウナヒ処女ヲトメか 年児トシゴの 片生カタオヒの時ゆ 小放ヲハナちに 髪たく
までに 並び居て 家にも見えず 虚ソラ木綿ユフの かくれてませば 見てしかと いぶ
せき時し かきほなす 人のいどむ時 ちぬ壮士ヲトコ うなひ壮士ヲトコの ふせやもえ 
すすしきほひて 相ひたはけ しける時には 焼き大刀ダチの 手かひ押しねり 白檀弓
シラマユミ 靱ユキ取り負ひて 水に入り 火にも入らむと 立ち向かひ 競ひし時に 吾妹子
が 母に語らく 倭文シヅたまき 賎しき吾が故 丈夫マスラヲの あらそふ見れば いけり
とも あふべくあれや しゝくしろ 黄泉ヨミに待たむと かくれぬの したはへ置きて
打ち嘆き 妹がいぬれば ちぬ壮士 其の夜の夢見て 取りつゝき 追ひゆきければ 
おくれたる うなひ壮士も い仰ふぎて 叫びおらひて つちにふして がみたけびて
もころをに 負けてはあらじと かけはきの 小釼ヲダチ取り佩ハき さねかつら つぎて
ゆければ 親族ヤカラとも いゆき集まり 永代ナガキヨに 標シルシにせむと とほき代に 語
り継がむと 処女墓ヲトメヅカ 中に造り置き 壮士墓 此方コナタ彼方カナタに 造り置けり 
ゆえよし聞きて 知らねども 新裳ニヒモのごとも ね泣きつるかも(萬葉集 九挽歌)
 
なげきつゝひとりぬる夜のあくるまは いかに久しきものとかはしる
げにやげに冬の夜ならぬまきの戸も をそくあくるはくるしかりけり
                        (以上、大鏡 五太政大臣兼家)
 
はかなしや浪の下にも入ぬべし 月の都の人やみるとて(源平盛衰記 三)
 
ふたつもじ牛のつのもじすぐなもじ ゆがみもじとぞ君はおぼゆる(徒然草 上)
 
つくつくとながめくらして入あひの かねのをとにも君ぞこひしき
                          (増鏡 十六久米のさら山)
 
△感カムス・カマケ
こもりくの はつせのやまは いまたちの よろしきやま わしりでの よろしきやま
の こもりくの はつせのやまは あやにうらぐはし あやにうらぐはし
                            (日本書紀 十四雄略)
 
はしきやしおきなの歌におほゝしき 九ココノの児等やかまけてをらむ
                         (萬葉集 十六有由縁並雑歌)
 
△楽タノシミ
生けるひと遂にも死ぬるものなれば このよなる間マは楽タヌしく有らな
                          (萬葉集 三雑歌 大伴卿)
 
衣手の 常陸の国の 二並フタナミの 筑波の山を 見まくほり 君がゐますと(中略)男ヲ
の神も 許し賜へり 女の神も ちはひ給ひて 時と無く 雲居雨ふり 筑波嶺ネを 清
め照らして 言コトとひし 国のまほらを まくはしに 示し賜へば うれしみと 紐の
緒解きて 家のごと 解きてぞ遊ぶ 打ち靡き 春見ましよりは 夏草の 茂くはあれ
ど 今日の楽タヌしさ(萬葉集 九雑歌 大伴卿)
 
年ふればよはひはおいぬしかはあれど 花をしみれば物思ひもなし
                        (古今和歌集 一春 藤原良房)
 
△笑エマホシ
あをやまに ひがかくらば ぬばたまの よはいでなむ あさひの ゑみさかえきて(
下略)(古事記 上)
 
念はずに妹がゑまひを夢に見て 心のうちにもえつゝぞをる(萬葉集 四相聞)
 
△怒ハラタツ
風はたゞ思はぬ方に吹きしかど わたのはらたつ波はなかりき(倭訓栞 中編二十波)

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