51 鏡を詠める和歌
 
                     参考:吉川弘文館発行「古事類苑」ほか
 
△鏡
真十鏡マソカガミ照るべき月を白妙の 雲か隠せる天津アマツ霧かも(萬葉集 七雑歌)
 
祝部ハフリらが斎イハふ三諸ミムロの犬馬鏡マソカガミ 懸けてぞ偲ぶあふ人ごとに
                        (萬葉集 十二古今相聞往来歌)
 
垂乳根の 母の形見と 吾が持たる 真十見鏡マソミカガミに(下略)(萬葉集 十三問答)
 
同
つぎねふ 山背道を 人夫の 馬より行くに 己夫し 徒歩より行けば 見るごとに 音のみ
し泣かゆ そこ思ふに 心し痛し
たらちねの 母が形見と 我が持てる まそみ鏡に 蜻蛉領巾 負ひ並め持ちて 馬買へ我が
背 
 
行年のおしくもあるかなます鏡 みるかげさへにくれぬとおもへば
                      (古今和歌集 六冬 紀のつらゆき)
 
見し人の影もなければます鏡 むなしき事を今やしるらむ
                      (続拾遺和歌集 十八雑 法印澄憲)
 
ちとせとも何かいのらむうらにすむ たづのうへをぞ見るべかりける
                          (拾遺和歌集 五賀 伊勢)
 
ますかゞみうらつたひするかさゝぎに 心かろさの程をみるかな(散木葉謌集 恋)
 
暁のわかれををしのかゞみかも おもかげにのみ人のみゆらむ(信明集)
 
玉くしげかゞみのうらにすむ千鳥 おぼつかなみにとぶとぶとゆく(賀茂保憲女集)
 
紐鏡ヒモカガミのとかの山も誰タが故か 君来ませるに紐とかず寝む
                        (萬葉集 十一古今相聞往来歌)
 
臣女タヲヤメの くしげに乗れる 鏡なす 見津ミツの浜辺に さにつらふ 紐解きさけず 
吾妹児ワギモコに 恋ひつゝ居れば(下略)    (萬葉集 四相聞 丹比真人笠麻呂)
 
気イキの緒に 吾が念ふ妹に 銅鏡マソカガミ 清き月夜に たゞ一眼ヒトメ みせむまでには
(下略)                    (萬葉集 八夏相聞 大伴家持)
 
日かげぐさかゞやくほどやまがひけん ますみのかゞみくもらぬものを
                             (栄花物語 八初花)
 
よのつねの光ならねばます鏡 そこまですめるさとりをぞしる
                    (新千載和歌集 九釈教 前大僧正禅助)
 
すべらきのあともつぎつぎかくれなく あらたに見ゆるふるかゞみかも
                              (大鏡 一後一条)
 
見るとても嬉しくもなしますかゞみ こひしき人の影をとめねば(下略)
                                (義経記 五)
 
身をつみて照しおさめよますかゞみ 誰が偽もくもりあらすな
                    (続古今和歌集 七神祇 左京大夫顕輔)
 
いなり山三つの杉中にます鏡 我ことだてゝ頼むかひあれ(恵慶法師集)
 
千早振神の心のあるゝ海に 鏡をいれてかつみつる哉(土佐日記)
 
かたばみのそばにおひたるかゞみ草 露さへ月に影みがきつゝ
                     (夫木和歌抄 二十八雑 民部卿為家)
 
露ふかきかたばみ草をたもとにて しぼりかくればおもかげもみず
                            (鶴岡放生会職人歌合)
 
水かねやざくろのすます影なれや 鏡とみゆる月のおもては(七十一番歌合 中)
 
朝日さすかゞみの山はくもらねど 峯の朝霧たえずもあらなむ(恵慶法師集)
 
身をわくる事のかたさにます鏡 影ばかりをぞ君にそへつる
               (後撰和歌集 十九離別旅集 おほくぼののりよし)
 
けふまでとみるになみだのます鏡 なれにし影を人にかたるな
                      (拾遺和歌集 八雑 よみ人しらず)
 
やまどりのをろのはつをにかがみかけ となふべみこそなによそりけめ
                             (萬葉集 十四相聞)
 
ひさかたの あまのとひらき たかちほの たけにあもりし すめろぎの かみのみよ
より(中略) すめろぎの あまの日嗣ヒツギと つぎてくる きみの御代御代 かくさ
はぬ あかきこころを すめらべに きはめつくして つかへくる おやのつかさと 
ことたてゝ さづけたまへる うみのこの いやつぎつぎに みるひとの かたりつぎ
てゝ きくひとの かがみにせむを あたらしき きよきその名ぞ おほろかに ここ
ろおもひて むなごとも おやの名たつな 大伴オホトモの 宇治と名におへる ますらを
のとも                            (萬葉集 二十)
 
年をへて花の鏡となる水は ちりかゝるをや曇るといふらん
                          (古今和歌集 一春 伊勢)
 
聞ばやな二つのほしの物語 たらひの水にうつらましかば(梅窓筆記 上)
 
池の面に影をさやかにうつしても 水鏡みるをみなべしかな
                       (夫木和歌抄 十一秋 西行上人)
 
くろかみと雪との中のうきみれば ともかゞみをもつらしとぞ思
                          (後撰和歌集 八冬 貫之)
 
年ごとにしらがの数をます鏡 みるにぞ雪の友はしりける(同 兼輔朝臣)
 
いくたびも心をみがけます鏡 うらにはかげのうつるものかは
                     (夫木和歌抄 三十二鏡 衣笠内大臣)
[次へ進む] [バック]