41 短歌文法「連語」
短歌文法「連語」
参考:飯塚書店発行「短歌文法辞典」
連語とは,二つ以上の単語が連なり,一語と同じ働きをする語で,活用のあるものを
「活用連語」と云う。本稿には,省略語や約語,慣用語も収載した。
〈連語〉
あか-で(飽かで) 四段動詞「飽く」の未然形「あか」に,打ちの接続助詞「で」が連
なったもの。口語で,もの足りなく。不満で。満足しないで,の意。例「たなばたの
あかで別るゝ袂より・・」
あ-らし ラ変動詞「あり」の連体形「ある」に,推量の助動詞「らし」が連なった「あ
るらし」の略。口語で,あるに違いない。あるに決まっている,の意。例「・・日の光
窓ゆさし来ぬ午にしあらし」「かくしつゝ楽しくあらし渚べに・・」
あら-な ラ変動詞「あり」の未然形「あら」に,願望の終助詞「な」が連なったもの。
口語で,あって欲しい。ありたい,の意。例「ことづてにてもあらなとおもへ人の瞳メ
の・・」「・・有明山のおだやかにあらな」
あらなく-に ラ変動詞「あり」の未然形「あら」に,打消の助動詞「ず」の未然形「な
」,接尾語「く」,更に詠嘆の助詞「に」が連なったもの。口語で,@ないのに。な
いことなのに,の意。例「病める身のなにをするとにあらなくに・・」「常日ごろ寂か
なる天ソラもあらなくに・・」「・・なべてを許す吾にあらなくに」
Aないことよ,と詠嘆を表す。
あら-まほ・し ラ変動詞「あり」の未然形「あら」に,助動詞「む」の未然形「ま」と
接尾語「く」,形容詞「ほし」が連なったものの略。口語で,そうありたい。そうあ
ることが望ましい,の意。例「つつがなく身はあらまほし雪ふりて・・」「・・いつまで
もいつまでも見てあらまほし」
ありあり-て(在り在りて) ラ変動詞「あり」が二つ重なり,下に助詞「て」が連なっ
て,副詞になったもの。口語で,同じ状態のまま時が経って。生き長らえて。長い年
月を経て。このまま引き続いて,とうとう。結局,の意。例「有りありて吾は思はざ
りき暁の・・」「ありありて見るさへわびし昨夜の茶の・・」「(清純の齢は既に越ゆる
とも)ありありて唯夫を頼めり」
あり-がて-な・し(有りがて無し) ラ変動詞「あり」に,上代の補助動詞「かつ(でき
る・堪える)」の未然形「かて」と形容詞「なし」とが連なって,ク活用の形容詞に
なったもの。口語で,じっとしていられない。堪えられない,の意。例「・・丹ニの花の
ありがてなくに寄りにけらしも」「・・胸さわぎしてありがてなくに」
あり-や-なし(有りや無し) ラ変動詞「あり」と形容詞「なし」の間に,疑問・反語
の助詞「や」が入ったもの。口語で,有るだろうか,いや無い,の意。例「・・春ちか
づきし思オモヒありやなし」「・・我のゆとりの値アタヒありやなし」「安らぎし日の四週間
はありやなしと・・」
ある-か-なき-か(有るか無きか) ラ変動詞「あり」と形容詞「なし」の各連体形「あ
る」「なき」の下に,疑問・否定の助詞「か」がそれぞれに連なったもの。口語で,
@有るのか無いのか分からない程幽かな様。例「・・あるかなきかの春にかなしむ」
A居るのか居ないのか分からない程ひっそりとした様。例「・・あるかなきかのいのち
なれども」
B生きているのかいないのか分からない程衰弱した様,の意。
いかに-か(如何にか) 副詞「いかに」に,疑問・不定の助詞「か」が連なって,副詞
になったもの。口語で,どういうふうに・・か。どのように・・か,の意。例「わが一生
ヒトヨいかにか過ぎむをりふしに・・」「・・雨のわびしきにいかにかいます母は一人して」
いか-ばかり(如何ばかり) 状態について疑いを表す語「いか」に,程度を推測する副
助詞「ばかり」が連なって,副詞になったもの。口語で,どれ程。どれ位。どんなに
か。さぞ,の意。例「老いて子に従ふといふこと如何ばかり・・」
いつ-しか(何時しか) 代名詞「いつ」に,強意の助詞「し」,係助詞「か」が連なっ
たもの。@既に起こった事柄について用いる。口語で,何時の間にか。知らぬ間に。
早くも,の意。例「いつしかも矢車草は咲き盛り・・」「いつしかに心がなしき夕雲の
・・」「いつしかとわが領域を犯しきぬ・・」「(逝きしより八年を経ておもかげも)い
つしか写真の顔に定まる」
Aこれから起こる事柄に対して待ち焦がれる気持ちを表す。口語で,何時・・か。何時
になったら・・か。早く,の意。例「いつしかは食はむ泉にしづむ螺ニナ・・」
がて-に 上代の補助動詞「かつ」の未然形「かて」に,上代の打消の助動詞「ぬ」の連
用形「に」が連なった語であるが,平安時代以後,形容詞「難し(がたし)」の語幹
「がた」に,助詞「に」が連なった意にとられるようになったもの。口語で,・・でき
ないように。・・しかねるように,の意。動詞の連用形に付く。例「・・起きがてに居り
久しぶりなり」「・・日ぐれの雨にさきがてに見ゆ」「心潔キヨくなりがてにしてさびし
きか・・」
がて-ぬ 上代の補助動詞「かつ(できる・堪える)」の未然形「かて」に,上代の打消
の助動詞「ぬ」の連体形「ぬ」が連なったもの。口語で,・・できない。・・しかねる,
の意。動詞の連用形に付く。例「・・雨雲のおほに動きつつ雨はれがてぬ」「・・ひたぶ
るさびし堪へがてぬかも」
かにも-かくにも 代名詞「か」と副詞「かく」が対になり,格助詞「に」と係助詞「も
」が下にそれぞれ連なったもの。口語で,ともかくも。何れにしても,の意。例「・・
ほとけごころはかにもかくにも」「よき友はかにもかくにも言絶えて・・」
け-らし 過去の助動詞「けり」の連体形「ける」に,推量の助動詞「らし」が連なった
「けるらし」の略。口語で,・・たらしい,の意。活用語の連用形に付く。例「夜のま
に雨ふりけらし屋根ぬれて・・」「・・心の灰も冷えにけらしな」「・・ほのりとわれは目
覚めけらしも」
ける-かな 過去の助動詞「けり」の連体形「ける」に,感動の助詞「かな」が連なった
もの。口語で,・・ことよ。・・だことよ,の意。活用語の連用形に付く。例「・・昼の電
燈つきにけるかな」「・・わが世いやになりにけるかな」「くるしくて暮れにけるかな
目にふれし・・」
ける-かも 過去の助動詞「けり」の連体形「ける」に,感動の助詞「かも」が連なった
もの。口語で,・・ことよ。・・だことよ,の意。活用語の連用形に付く。例「・・こよひ
も赤く見えにけるかも」「・・白き布団を乾しにけるかも」「・・・・入道雲むくりむくり
と湧きにけるかも」
この-も-かの-も(此の面彼の面) 指示代名詞「こ」と「か」の下に名詞「面モ」が付
いたもの。口語で,@両側,の意。
Aあちらこちら,の意。例「漣サザナミのこのもかのもの時折に・・」「あれ見たまへこの
もかのもの物かげを・・」
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