40c 短歌文法「助動詞」
 
む @第三者の動作の下に付いて,予想,推量を表す。口語で,・・だろう,の意。例「
 夜を更かす些事イササカゴトは何ならむ・・」「吾子よ吾子よくるしからめど力チカラ出イダし・・
 」
 A話し手の動作の下に付いて,意志,希望を表す。口語で,・・しよう。・・たい,の意。
 例「・・天邪鬼やめて生きむと思ふ」「・・橋あり薔薇をもちてわたらむ」「読書きに借
 らむ人手をおもひつつ・・」
 B連体形を用いて仮定を表す。口語で,もし・・としたら,の意。例「ながらへむ命の
 すゑを・・」
 C聞き手の動作の下に付いて,多く「こそ・・め」の形で遠回しの勧誘を表す。口語で,
 ・・なさい。・・してくれ,の意。例「秋草は晴れてこそ見め長月の・・」
 D第三者の動作の下に付いて,適当,当然を表す。口語で,・・するのがよい。・・すべ
 きだ。・・するはずだ,の意。例「ひっそりと秋はつめたきものならめ・・」
 E「めや」「めかも」の形で反語の意を表す。例「・・命のすゑを思はめや・・」
 活用語の未然形に付く。
 
めり 不確かではあるが大体そうだろうと主観的に推量し,また,動作を直接的に言う
 のを避けて,遠回しに言うのに用いる。口語で,・・ように見える。・・のようの思える。
 ・・らしい,の意。活用語の終止形に付く。例「(白雲)伴ツレを呼ぶめり冨士の中処ナカ
 ドに」「・・北の日本の秋も去イぬめり」
 
ゆ @受身を表す。口語で,・・される,の意。例「・・住む方カタも無く人に憎まゆ」
 A可能を表す。口語で,・・することができる,の意。下の打消を伴う。例「・・おもひ
 たまひてかぎり知らえず」「(滝壷)踏まゆる巌根もとどろとどろに」
 B自発を表す。口語で,自然に・・される,の意。例「・・おのづからいたりつく時はじ
 めて知らゆ」
 四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に付く。
 
らし @ある根拠・理由に基づき,確信をもって推定する。口語で,・・らしい。・・に違
 いない,の意。例「地下水の脈ほそぼそと触るるらし・・」「・・母が魂螢となりて夜を
 きたるらし」
 A根拠・理由は示さないが,確信をもって推定する。口語で,間違いなく・・に違いな
 い,の意。例「・・月給を月月いくらかのこしたむらし」「曇りつつ雪ふるらしき夕ぐ
 れの・・」「(きりぎりすの鳴く)すべてをかけて悔クイやまぬらしき」
 動詞・動詞型活用の終止形(ラ変は連体形),その他の活用語の連体形に付く。
 
らむ @目前に見えていない事柄を推量する。口語で,今頃はさぞかし・・のことであろ
 う,の意。例「ふるさとの盆も今夜はすみぬらむ・・」「(古やまと埴輪の兵が夜の山
 を)越ゆらむこよひ風昏く盈ミつ」「・・なれはいひ出づ何思ふらめ」
 A時を超越した一般的推量を表す。口語で,・・だろう,の意。例「・・鳥のやからも来
 てを鳴くらむ」「・・河にさそはれ桜花散るらん」「・・もっと困らば何をやめるらむ」
 「・・空に光りて雨ふるらむか」「・・明日は疲れてまた眠るらむ」「・・新しき日の照る
 らむを何か嘆かむ」
 B現在の動作の原因,理由,場所などを推量する。(a)疑問語を伴い,口語で,・・てい
 るのは(どうして,どこ),の意。例「(寒蝉カンセン)なれはいひ出づ何思ふらめ」
 (b)疑問語を伴わないで,口語で,どうして・・なの だろう,の意。例「・・ものぐさき
 心妻知るらめや」
 C伝聞による推測に用いる。口語で,・・とかいう,の意。
 D助詞「かな」に当たる詠嘆を表す。
 活用語の終止形(ラ変は連体形)に付く。
 
らる @受身を表す。口語で,・・される。・・られる,の意。例「・・満場の意志と伝へら
 るべし」「笹の葉をとりに行きにし声かけられ・・」「帯鉄オビテツに締めあげられし綿俵
 ・・」「唾かけて棄てらるるとも君が手に・・」「・・おもちゃの如く捨てらるる児よ」
 A自発を表す。口語で,自然と・・される。・・しないではいられない,の意。例「・・過
 ぎにし年がかへり見らるる」
 B可能を表す。口語で,・・することができる,の意。例「・・波ばかりうねりくねれり
 あきらめられず」「・・何かつかまへてをらねば人は生きられぬのか」
 C尊敬を表す。口語で,お・・になる。お・・なさる。・・ておられる,の意。
 上一・下一・上二・下二・カ変・サ変動詞の未然形に付く。
 
り @動作の完了を表す。口語で,・・た。・・てしまった,の意。例「・・心動きて過ぎが
 てにせり」「・・君し知れらば共に生きなむ」「冬にいりて莟ツボミふふめる臘梅ロウバイは
 」「・・我は知れれど子は知らずけり」
 A完了した動作がなお継続・存在している意を表す。口語で,・・ている。・・てある,
 の意。例「・・秋の雲白く空に光れり」「晩夏の雲厚き日に花は咲けり(朝顔)」「・・
 悲しめる身の透明にあり」「平淡にこころかへれる目の前に・・」「五月雨の草しげれ
 れや大御城オホミシロ・・」「南天の実はくれなゐににほへれど・・」
 四段活用の已然形とサ変の未然形に付く。
 
る @受身を表す。口語で,・・られる。・・される,の意。例「青き火に捲かると云はる
 恋すれば・・」「・・怠ナマくる我を知らるな人に」「・・泣かれむとしき今日のこころに」
 「世に生きて蔑サゲスまれずにすごす日の・・」「」わづかなる空間に物が干されあり・・
 」「たちまちに持ちきたり持ちさられゆく魚の・・」「養はるるゆゑに遊びと見られゐ
 む・・」「すこやかに育てばまして歓ナゲかるる・・」「・・さとす涙にこころひかるれ」
 A自発を表す。口語で,自然と・・される。・・しないではいられない,の意。例「幾た
 びか我が心くだかれつまたくだかれつ・・」「労イタはらるれば陽のある・・」「・・はしる
 子見ればうら嘆かるれ」
 B可能を表す。口語で,・・することができる,の意。
 C尊敬を表す。口語で,お・・になる。お・・なさる。・・しておられる,の意。例「身に
 まとふ昏クロきかげりは許されよ・・」
 四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に付く。
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