40b 短歌文法「助動詞」
 
なり @ある事実を断定して述べる。口語で,・・である,の意。「(くちなしの花)・・
 にほひつつまた外は雨なり」「死はも死はも悲しきものならざらむ・・」「(産卵を終
 へし魚たち)流されてゆく身軽さならむ」「ドラマの中の女ならば如何にか(哭く)
 」「・・思ひ湛ふべき心なりけり」「(みちのくの母のいのちを)一目見ん一目みんと
 ぞいそぐなりけれ」「(芽吹きの裏山)見るものにして今日も倚る窓」「・・我なるも
 のを神と知るかな」「幽かなる煙なるかも何事も・・」「人みながかなしみを泣く夜半
 ヨハなれば・・」「うまれむを男子ヲノコなれとし願へるは・・」
 A地点・場所などを表す語に付いて,口語で,・・に存在する。・・にある。・・にいる,
 の意。例「・・塔の上なる一ヒトひらの雲」
 B口語で,・・という(と云う),の意。
 体言及び用言の連体形に付く。
 
なり @聞こえてくる音声から判断し推定して言う。口語で,・・のようだ。あれは・・だ
 な,の意。例「夕されば牛の仔群れて鳴くなれど・・」
 A周囲の状況などから判断し推定して言う。口語で,・・のようだ。・・らしい,の意。
 例「・・神いますなり畏カシコしとせむ」「・・かかるわかれのあればなるらむ」「さりげな
 く起居タチイはすなれ秋曇る・・」
 B直接に経験しないこと,間接に聞いて知ったことを言う。口語で,・・だそうだ。・・
 と云うことだ,の意。例「かなしみは蓬ヨモギの香カよりきたるなり・・」「(ほとゝぎす
 声の聞かぬは来馴れたる)上野の松につかずなりけむ」
 用言の終止形(ラ変は連体形)に付く。
 
ぬ @動作の完了を表す。口語で,・・てしまう。・・てしまった,の意。例「・・思ひのこ
 して母みまかりぬ」「・・てのひらを重ねてをりぬ呼ばるるまでを」「(藤の花)咲き
 てありなばたのしからまし」「雨はれなば山に竹の実求めゆかむ・・」「・・いたつきい
 えむ春しありにけり」「(・・富士が峯の)なぞへ(斜面のこと)こごしく雪照りにつ
 つ」「(おのづから熟ウみて木コの実も)地に落ちぬ恋のきはみにいつか来にけむ」「
 ・・はじめて知りぬ夜の恐ろしさ」「(高々と向日葵ヒマワリとあひちかく)韮ニラの花さく
 時になりぬる」「老いぬれば心いやしくものいふと・・」「・・照れる春日に人は行きぬ
 れ」「(わが胸の)秘密の扉誰か開きね」
 A「む」「べし」「らむ」などを伴って陳述を確かめ,強いる。口語で,きっと・・す
 るであろう。確かに・・する,の意を表す。例「・・眉延べてただにありなむものを」「
 絶えぬべく悩みわたれる妻を見て・・」
 活用語の連用形に付く。
 
ふ 動作・作用が反復,継続していることを表す。口語で,繰り返し・・する。・・しあっ
 ている。・・し続ける,の意。四段活用動詞の未然形に付く。例「(葛花はおもしろき
 かもたはやすく)木にも石にも匐ハひもとほらふ」「心足はぬ吾に涙のきざすもの・・」
 「見おろせば和田の原かきにごらひつ・・」「いかり綱五百尋杉イホヒロスギに包まへる・・」
 「・・多摩川の瀬に立ちて呼ばへば」
 
べし @推量を表す。特にある程度確信のある推測,予想を表す。口語で,きっと・・で
 あろう。・・に決まっている。・・しそうだ,の意。例「・・死者なるべしそこに瞠メミハるは
 」「うらぎらるべきやがてのときに思ひつき・・」「内職のをやみなき音きこゆべき・・
 」「かすかなる歓ヨロコビといはばいふべけれ・・」
 A可能,又は可能性を推定する。口語で,・・することができる。・・することができよ
 う,の意。例「此の苦しみ口に出イダして言ふべからず・・」「・・しづかに住むべくなり
 ぬ」「血塗らずして得べき平和は思はねど・・」
 B当然を表す。口語で,・・するはずだ。・・するに違いない,の意。例「子は子とて生
 くべかるらししがすがに・・」
 C終止形を用いて意志を表す。口語で,・・するつもりだ。・・する決心だ,の意。
 D命令,勧誘,許可を表す。口語で,・・するのがよい。・・なさい,の意。例「・・朝明
 の雨に又ねむるべし」「・・塗炭の苦を嘗むる者を先づ救はざるべからず」
 E予定を表す。口語で,・・することになっている,の意。例「・・堪へ難き子の病見る
 べく」「・・吾れ故里を去るべかりけり」
 F適当を表す。口語で,・・がよかろう。・・が適当だ,の意。例「・・誰タに告ぐべしや身
 のさかりゆく」「(お参りに行く道)青菜はいまかつむべからしも」「身に著ツけて帰
 るべかりしその衣キヌは・・」
 G必要,義務を表す。口語で,・・しなければならない,の意。例「何を光と何を拠り
 どと生くべきや・・」
 動詞活用の終止形(ラ変は連体形),形容詞・形容動詞活用の連体形に付く。
 
まい @打消の推量を表す。口語で,・・ないだろう。例「ある時は誰知るまいと思ひの
 ほか・・」
 A打消の意志を表す。口語で,ないことにしよう。
 B打消の当然,適当の意志を表す。口語で,・・するはずがない。・・しないほうがよい。
 C禁止の意を表す。口語で,・・してはいけない。
 四段活用型の終止形,それ以外は未然形に付く。
 
まし @事実に反したこと,実際には起こらないことを仮定して,その結果を推量する。
 口語で,もし・・たら・・だろうに,の意。例「(緑玉エメラルド)その玉掏スらば哀しからま
 し」
 A現実を不満に感じてある状態を仮定し,それに憧れる気持ちを表す。口語で,もし
 ・・たら・・たいのに不満だ,の意。例「(怒る時かならずひとつ鉢を割り)九百九十九
 割りて死なまし」「・・飛びても行かな鷺サギにあらせば」
 B仮定の上に立って相手に対する希望を表す。口語で,・・てくれ。・・て欲しい,の意。
 「・・淋しとだにも言はましものを」
 C疑問語と共に用いて,主観的な意志,推量を表す。口語で,・・だろう。・・しよう,
 の意。例「・・死にてはいかにさびしからまし」「・・とはいづかたぞ中京ナカギョウこえて
 人に問はまし」
 D口語で,・・たらよかったのに,と適当の意を表す。例「泣かましと思ふ心わが瞳に
 ・・」「・・何にかあらむいゆき抱かましを」
 動詞,形容詞・形容動詞型活用の未然形に付く。形容詞には「から」の形に付く。
 
まじ @多く話し手の動作の下に付いて,否定的意志を表す。口語で,・・ないつもりだ。
 決して・・まい,の意。例「おもふまじ夢もながるる(川の洲の)砂のごとくもかげと
 ゞむまじ」「駆け引きはなすまじと心に決めたれど・・」「・・感動わくも虚にあるまじ
 く」「・・おろそかに身をもてなすまじきぞ」
 A多く聞き手の動作の下に付いて,相手に対して当然の禁止を表す。口語で,当然・・
 てはいけない,の意。例「・・何をあらがふ憎むまじ憎むまじ」
 B多く第三者の動作の下に付いて,否定的推量を表す。口語で,・・のはずがないだろ
 う,の意。
 C多く第三者の動作の下に付いて,不可能の推量を表す。口語で,・・できそうにない,
 の意。
 動詞の終止形(ラ変は連体形),形容詞・形容動詞の連体形,ある種の助動詞の終止
 形又は連体形に付く。
 
まほし @話し手の希望を表す。口語で,・・たい,の意。例「・・われもこの日ごろ泣く
 ばかり眠らまほし」「まじまじと君が姿の見まほしく・・」「・・この静けさよ保たまほ
 しき」「・・抱かまほしきサンタマリヤか」「・・薄ススキに消えぬ泣かまほしけれ」「・・新
 聞紙こそ泣かまほしけれ」
 A話し手以外の人の希望を表す。口語で,・・たい。・・たがっている,の意。例「・・捨
 て身心の泣かまほしかり」
 動詞及び動詞型活用の未然形の付く。
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