40a 短歌文法「助動詞」
 
さす 他のものにある行為をさせる使役の意を表す。口語で,・・させる,の意。例「限
 りなき思ひせさす泰山木の花・・」「・・ひとやの服に着換へさせたり」「・・巷チマタのちり
 にまみれさせるも」
 上一・下一・上二・下二・カ変・サ変の動詞の未然形に付く。
 
じ @打消の推量を表す。口語で,・・ないだろう,の意。例「・・我れ忘れねば君も忘れ
 じ」「・・しげくはあらじ草の上の露」「我が行くは憶良の家にあらじかとふと思ひけ
 り・・」
 A主語が一人称のときに,打消の意志を表す。口語で,・・まい。・・しないつもりだ,
 の意。例「ひとすじにひとを見じとて思ひ立つ・・」「ぬかるみの山路に足をすべらさ
 じ・・」「彼がするよからぬ事はとげしめじと・・」
 活用語の未然形に付く。
 
しむ @使役を表す。口語で,・・させる,の意。例「・・窓あけはなち風を入れしむ」「
 (草づたふ朝の蛍よみじかかる)われのいのちを死なしむなゆめ」「泥濘ヌカルミをこえ
 しめむとわれは子を支ふ・・」「・・くりかへしわれは語らしめつつ」「・・少女の如く装
 はしめき」「(われをして)斯く歌はしめ祈らしめ今日もあらしむるくしき導」「静
 やかに君をおもはしめよ拭へども(涙)」
 A尊敬を表す。口語で,・・なさる,の意。連用形「しめ」が「給ふ」を下に伴って高
 度の尊敬を表す。例「・・父を送らむに止ましめたまへ今日の雨降を」「歌よみて遊ぶ
 心を持たしむる・・」
 B謙遜の語に付いて高度の謙遜を表す。
 用言の未然形に付く。
 
す 尊敬を表す。口語で,お・・になる。お・・なさる,の意。例「・・先生泥みちの遠みち
 行かす今日の御供ミモトと」「・・鉢のまへにて言はしける別れ来し日の父が眼マナざし」「
 ・・まどしき吾(貧しい自分)をもたのます父かも」「・・ことなく越させ君がつま子を
 」「父も母も兄のみ魂も来て食メさせ・・」
 四段・サ変動詞の未然形に付く。
 
す @使役を表す。口語で,・・させる,の意。例「幼子が・・吾をも笑まして言コト忘らす
 も」「・・金魚篭コモらせむと水を入れつも」「・・おとなしくして針はささせつ」「この
 しばしこころ休まするてだてとて・・」「・・我れに這はせよ水色の雲」
 A多く「給ふ」「らる」などの語を下にともなって高度の尊敬を表す。口語で,お・・
 なさる,の意。例「・・胡瓜キュウリを送る障サハりあらすな」「・・尊き人は死なせ給ひぬ」
 「・・わが生きざまをあはれませたまへ」「・・秋しばしだにやすらぎあらせよ」
 B「申す」「参る」などの語と共に用いて,謙遜を表す。
 四段・ラ変・ナ変活用動詞の未然形に付く。
 
ず 打消を表す。口語で,・・ない,の意。例「時鳥ホトトギスまだきかずやととはれても嘘
 はいはれず(ききたかりけり)」「日日のこと果しえずしてあはあはと・・」「秋のい
 ろ限カギリも知らになりにけり・・」「思ひがけぬ(やさしきことを吾に言ひし)彼カの人
 は死ぬ遠からず死ぬ」「・・ゆるされうべき身にしあらぬに」「・・なさねばならぬ用は
 なきなり」「鳴く声のここにきこえね羽ばたきて・・」「こころゆきて勤務ツトむるなら
 ね駅までの・・」
 用言及び助動詞の未然形に付く。
 
ざり 打消の助動詞「ず」の連用形「ず」に,ラ変動詞「あり」が付いた「ずあり」の
 転。口語で,・・なく。・・ないで,の意。例「・・再び汝ナレに逢はざらめやは」「・・山の
 タラの芽まだ出でざらむ」「・・わが体力を疑はざりき」「生きものを愛さざりし幼女
 期を・・」「今朝はいまだ人の出でざる戸の口に・・」「・・今夜も夢は来らざるべし」「
 ・・みみずらはおよそまなこをもたざるならむ」「(老をいたく意識する)日とせざる
 日と今日はせざれば物多く言ふ」「この街のにぶき光りの動かざれば・・」「・・かなし
 きこゑよ蘇らざれ」「とこしへに君よ清かれ汚れざれ・・」
 活用語の未然形に付く。
 
たし @話し手の希望を表す。口語で,・・たい,の意。例「(・・雪に熱ホてる)頬ホを埋
 むるがごとき恋してみたし」「幸福のわれが見たくて真夜なかの・・」「生きてゆく幅
 を少しでもひろげたく・・」「・・心に沁みて生きたかりける」「・・失ひたかりし記憶も
 惜しく」「一人だに優しく生きて終りたき・・」「東京に帰りたきかな雪の街・・」「逢
 ひたかる故旧なかんづく沼に棲む・・」「(おたまじゃくし)生れたければ生れてみよ
 」
 A他の動作・状態に付いて,話し手の希望を表す。口語で,・・て欲しい,の意。
 動詞及び動詞型助動詞の連用形に付く。
 
たり @完了又は過去を表す。口語で,・・た,の意。例「・・しかはあれどもとし経たり
 けり」「(新任の教員なれば)無駄口もあんまりきかず居たりけるかも」
 A動作・作用は既に済んだが,その結果が状態として存在していることを表す。口語
 で,・・てある,の意。動作・作用が引き続いて進行している状態を表す。口語で,・・
 ている,の意。例「神の代の姿に似たり凍りたる湖ウミの・・」「・・今日といふ日の灯ヒは
 ともしたり」「このごろの物思ひおほく疲れたらむ・・」「(女孤り)心解きたる朝湯
 にて肌透ヘきたりうす青き色」「蓮葉ハチスハの広葉のうへに湛へたる・・」「・・厨クリヤの床
 は汚れたるまま」「室のうち片づけ終へてすわりたれ・・」「臥所フシドの梅の影こそ移
 りたれ・・」
 動詞の連用形に付く。
 
たり 指示する意の助詞「と」と動詞「あり」の付いた「とあり」の略。口語で,・・だ。
 ・・である。・・なのだ,と物事を指定,断定する意を表す。体言に付く。例「管理職な
 れど編集者たらむかな・・」「(おもかげに母おもひ)見れば人遂に母たりなむと思ひ
 悲しも」「兵たりしものさまよへる風の市・・」「・・古稀の味覚を第一として」「偽り
 に馴れざる心たれ彼れが・・」
 
つ @動作・作用が完了し,またそれが存続していることを表す。口語で,・・た。・・て
 しまう。・・てしまった,の意。例「(おきなぐさに唇ふれて帰りしが)あはれあはれ
 いま思ひ出でつも」「入り来つる森の蘚コケ地を深くして・・」「・・病み臥コヤりつる枕べ
 に置きつ」
 A単に強意を示す。
 B確認を表す。口語で,確かに・・だ。必ず・・する,の意。例「・・或る夜かすかに漂ひ
 そめつ」「・・このもかのもに物言ひてまし」「あきらめて事のなりゆきに任せてむと
 ・・」「父母にきかせてしがな鈴虫の・・」「ことなげにものをいひつれかくまでに・・」
 「・・宮の守り札捧げて来つれあはれ老い母」
 C並列を表す。口語で,・・たり・・たり,の意。例「・・胸ムナさわぎして行きつもどりし
 つ」
 活用語の連用形に付く。
[次へ進んで下さい]