40 短歌文法「助動詞」
 
              短歌文法「助動詞」
 
                      参考:飯塚書店発行「短歌文法辞典」
 
 助動詞だけでは文節を作らず,名詞,動詞,形容詞,形容動詞,更に他の助動詞に付
いて活用し,それらにいろいろの意味を加えて叙述を助ける。
△意味により次ぎのように分類する。
 
使役(他を動かして動作をさせること)す・さす・しむ
 
受身(他からある動作を受けること)る・らる・ゆ
 
可能(「・・することができる」を表す)る・らる・ゆ
 
自発(ある動作が自然にそうなること)る・らる・ゆ
 
尊敬(他人の動作を表す語に付いて,その人を敬う)る・らる・す・さす・しむ
 
打消(動作・存在・状態を打ち消す。否定するとも言う)ず・ざり・じ・まじ・まい
 
推量(推測すること)む・けむ・らむ・らし・べし・まじ・じ・まし・めり
 
過去(過ぎ去った動作・状態を表す。回想を表す) き・けり
 
完了(動作が完結していること,或いはその結果が現在まで存在していること)つ・ぬ
 ・たり
 
希望(自分,又は他がこうありたいと希望すること)たし・まほし
 
断定(事物・動作・状態などを差し定めること。指定)なり・たり
 
比況(事物又は動作を他と比較し,また他に例える)ごとし
 
伝聞(伝え聞いて推定すること)なり
 
△活用により次ぎのように分類する。
 
動詞型活用
 下二段型 す・さす・しむ・る・らる・つ・ゆ
 ナ変型 ぬ
 ラ変型 たり(完了)・り・けり・めり・なり(伝聞)
 四段型 む・けむ・らむ・す・ふ
 
形容詞型活用
 ク活型 たし・べし・ごとし
 シク活型 まほし・まじ
 
形容動詞型活用 なり・たり(断定)
 
特殊型活用 ず・まし・き・まい
 
無変化型活用 らし・じ
 
〈助動詞〉
 
う 推量の助動詞「む」の転。@話し手の意志を表す。口語で,・・よう,の意。例「・・
 馬に忘れず翼を附さう」「・・帰り支度にとりかからうか」
 A話し手による推量を表す。口語で,・・だろう,の意。例「・・ひねれた松の木などか
 ら来るのであらう」
 四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に付く。
 
き @過去に直接経験した事実を表す。口語で,・・た,の意。例「・・われにあてし苔痛
 かりき愛されし日も」「・・生ヨを思ひて悶えき幾年イクネンか前は」「(いつまでも)待つ
 と言ひしかば鎮まりて帰りゆきしか(それより逢はず)」
 A動作・状態が完了して,その結果が存在していることを表す。口語で,・・ている。
 ・・てある,の意。例「古家フルイヘにたちかへりきしつばらくの・・」「この小さき島に幾
 世を継ぎ来しか・・」「むくはれぬゆゑ清きもの燃やせしか(螢火)」
 B連体形の「し」で終止して,詠嘆,余情を表す。口語で,・・だったことよ,の意。
 例「・・南の空はほの赤かりし」
 用言及び助動詞の連用形に付く。
 
けむ @過去のことを回想的に推量する。口語で,・・ただろう。・・だっただう,の意。
 例「君なくば早稲田学園なかりけむ・・」「・・竝ナミならず妻の気づかひにけめ」
 A過去の明らかな事実について,その原因・理由などを推量する。口語で,・・たので
 あろう,の意。例「いつしかも斯くはなりけめこころ刺す・・」
 B過去のことに関する伝聞を述べるのに用いる。口語で,・・たとかいう。・・だったそ
 うだ,の意。例「・・雲の中に秘めけむ君がうたをきかばや」「この都にほへる花とさ
 かえけん(葵アフヒ祭)」
 活用語の連用形に付く。助動詞の「けり」「めり」「ごとし」などには付かない。
 
けり @意識しなかった事実に初めて気付き感動する。口語で,・・たのだなあ,の意。
 例「・・こゑのとよみはうららかなりけり」「・・君唇をよせにけらずや」
 A過去の事実についての伝聞を述べるのに用いる。口語で,・・したそうだ,の意。
 B過去にあった事柄や,以前から現在まで続いている事柄を印象を新たに回想して言
 う。口語で,・・た。・・だ。・・たのであった,の意。
 C詠嘆を表す。口語で,・・たことよ,の意。例「・・憎む日はやく到りけるかも」「荘
 司馬場あはれ田の名となりにける・・」「・・歯の痛むこそこそかなしかりけれ」
 活用語の連用形に付く。
 
ごとし(如し) @あることが他に似ていることを表す。口語で,・・と同様だ。様子だ。
 具合だ,の意。例「・・そりかへり貝殻投げしごとし畳に」「生きすぎしさびしさふい
 に湧くごとし・・」「・・涯ハテなきものを追ふごとくにも」「両モロの手にうくるが如し子
 がいひぬ・・」「・・恐るる如く楽しむ如く」「・・黙示のごときかがやきを持つ」「快き
 夏来にけりといふがごと・・」「物思はずこの妻の如ゴト子等のごと・・」「・・わがふるさ
 とに帰れるがごと」
 A例示するとき用いる。口語で,例えば・・の類だ,の意。
 B不確かな断定,ほのめかした断定を表す。口語で,・・らしい。・・のような気がする,
 の意。例「・・時の感じの死の如きもの」
 「ごと」とも。動詞,助動詞の連体形と,これに助詞「が」「の」の付いたもの,ま
 た体言に助詞「の」に付いたものに付く。
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