37a 短歌文法「動詞」
 
いき-づ・く(息づく) (自動・四)@苦しい息を吐ツく。喘アエぐ。例「・・するどき秋の
 かげに息づ く」
 A溜息を吐く。嘆く。嘆息する。
 
いき-どほ・る(憤る) (自動・四)酷ヒドく腹を立てる。例「(自殺を)きみ嘆きわれ
 憤る」「いきどほり泣く子をすかす妻のこゑ・・」「いきどほることし絶えねば酒みづ
 き・・」
 
いざな・ふ(誘う) (他動・四)誘う。勧める。導く。誘い出す。例「(刈田原・・)水
 のひかりは心いざなふ」「咲きさかる花爛漫にいざなはれ・・」「なほ昏き北に誘なふ
 暁け方を・・」「・・サタンは甘く吾を誘へり」
 
いざよ・ふ (自動・四)進みかねる。躊躇タメラう。たゆとう。「いさよふ」とも。例「
 (黒潮の渦)みなぎるひびき空にいざよふ」「・・さくらいざよふ清滝の里」「遠白トホ
 シロうちひさき雲のいざよへり・・」
 
い・づ(出づ) (自動・下二)@出る。現れる。例「(花嫁)襖の奧に置きて涙出づ」
 「・・蜥蜴トカゲは入りて再びいでず」「君恋し葵アオイの花の香カにいでて・・」
 A外に出て行く。例「・・のがるる如し家を出づるとき」「うみつかれ停車場を出づれ
 ば夕霧の・・」
 B湧く。
 C生れる。
 D出発する。
 E口に出して言う。
 
いつ・く(斎く) (自動・四)@心身を清めて神に仕える。
 A崇め奉タテマツる。敬って大切にする。例「(天にさくら地にかたくり・・)心に斎くわ
 が師わが父」
 
いとし・む (他動・四)@いとおしむ。可愛がる。例「・・過ぎしこしかたのわれをいと
 しむ」「うつしみの腎をいとしみ薬草の・・」「(洗眼)愛しむしぐさ何時よりか馴れ
 て」「その命愛しめばためらふ間引なり(わが家の野菜)」
 A可哀想だ。
 
いぬ(寝ぬ) (自動・下二)寝る。横になって眠る。例「・・和解といへば寂しみて寝
 ぬ」「いねざればこの身疲るといらだてど寝ね得ざるなり(をさな児の家)」「(わ
 らびを食べる)修験者のごときおもひにいねんとぞする」「(月光)顔の隈濃く寝ぬ
 る吾が妻よ」「(月が射す)やすらかにいねにと言ひて看護婦は去る」
 
い・ぬ(去ぬ・往ぬ) (自動・ナ変)@行ってしまう。去る。死ぬ。例「父君に召され
 て去なむ永久トコトハの・・」「愁ひつつ去にし子ゆゑに藤のはな・・・・」
 A過ぎ去る。時が移る。
 
いぶかし・む(訝しむ) (他動・四)疑わしく思う。怪しむ。例「・・かくし音なきをい
 ぶかしみせり」
 
い-ぶく(息吹く) (自動・四)@息を吹く。呼吸する。例「・・落葉の下にいぶきゐる
 なり」
 A風が吹く。「いふく」とも。
 
い・ゆ(癒ゆ) (自動・下二)病気や傷などが治る。全快する。精神的な痛みが去る。
 例「白血病癒ゆとの便りをかきいだく・・」「・・一日イチニチの疲れ癒えなと燈アカリを消しぬ
 」「わが病癒えししるしに高原の・・」「癒ゆる日のなしといはざり然れども・・・・」
 
いら・つ(苛つ) (自動・四)心が落ち着かない。苛立つ。じりじりする。例「何時ま
 でも合わぬ算盤にいらちゆく・・」
 
う(得) (他動・下二)@手に入れる。自分のものにする。例「生きC得べき所を得
 ずば生きがたき」「志を得ば世はよけむかたはらに・・」「花得たる泰山木タイサンボクか青
 年の・・」「一噸トンのハマチを得るに十噸の・・」「まどゐ得よと母が持たせくれし長火
 鉢・・」
 A得意とする。
 B理解する。
 C他の動詞の連用形に付いて,口語で,・・できる,の意。例「生き得べき所を@得ず
 ば生きがたき」
 
うごめ・く(蠢く) (自動・四)絶えず僅かに動く。もぐもぐ動く。例「命イノチなき汝ナ
 が唇のうごめくと・・」
 
うす-づく(臼搗く・舂く) (自動・四)@臼に物を入れて杵キネで搗く。
 A夕日が地平線や西の山に入ろうとする。例「・・春日うすづく頃とはなりぬ」「舂け
 る彼岸秋陽に狐花(曼珠沙華のこと)・・」
 
うつろ・ふ(移ろふ) (自動・四)@移動する。例「・・うつろふ小鳥も高く飛ばなく」
 A変わる。褪アせる。例「移ろはぬ血のなきものをひとに触れし・・」「・・芒ススキの花も
 うつろひにけり」
 B時が過ぎて行く。例「(洋凧・・)海のへに時はうつろふ満ちてうつろふ」
 C花や葉が散る。
 D人の心が他に動く。
 
うと・む(疎む) (他動・四)厭イヤがって素気ソッケなくする。厭に思う。例「・・吾子よ
 汝のみは父をうとむな」「・・ざらつく頬の鬚ヒゲをうとみつ」「感鈍くありたる日々を
 うとむとも・・」
 
うな-かぶ・す(項傾す) (自動・四)うなだれる。首を傾カシげる。例「(時雨朝)庭
 草の穂は項傾す」「縮まりて母うなかぶし坐イマすごと(・・墓)」
 
うべな・ふ(諾ふ) (他動・四)承諾する。認める。例「(父の性サガ)似るなと思ひ
 似るを肯ウベナふ」「・・かの涯にきかば一人の死も肯はむ」「・・まざまざと見るうべなふ
 なかれ」「美しといふはうべなへその山に・・」
 
う・む(倦む) (自動・四)厭になる。厭きる。例「(檻の猿)倦むを知らずともまた
 倦めりとも」「咳くごとに背セナをさすりて倦まざりし・・」「倦みやすきこころ悔クヤし
 くくもる日の・・」「(花)ひとり束ねて倦むこともなし」
 
うら-が・る(末枯る) (自動・下二)草木の梢や葉先が枯れる。例「(雑草)ひしが
 れしままうら枯れにけり」「おのづからうら枯るるらむ秋草に・・」
 
うら-ぶ・る (自動・下二)侘びしく思う。悲しみに沈む。例「此処に来て心侘ウラブれ
 をれば城山ジョウヤマの・・」
 
うるほ・す(潤す) (他動・四)@水気を含ませる。濡らす。例「(既に亡くなった)
 母が手にかへれる稚児の頬湿さむ」
 A潤沢にする。豊かにする。
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