37 短歌文法「動詞」
 
              短歌文法「動詞」
 
                      参考:飯塚書店発行「短歌文法辞典」
 
 動詞は,ものごとの動作や存在を表す。意味上の変化をするため,また,他の語に接
続するために,語形が変化する。変化する部分を語尾ゴビ,変化しない部分を語幹ゴカン
と呼ぶ。この語形変化の形を活用形と云い,五十音図によって整理する。歴史的仮名遣
いの動詞の活用形は,未然ミゼン形,連用形,終止形(基本形),連体形,已然イゼン形,
命令形の六つである。
 活用形の用法は動詞ばかりでなく,形容詞,形容動詞にも共通する。
 
未然形 助詞「ば」,助動詞「む」に連なって,未だ実際には起きていない事実を述べ
 るのに用いられることが多いので,未然形と呼ばれる。文中では常に助詞,助動詞に
 連なって,未然の条件の他に,否定,未来,使役,受身などの意を表す。
 
連用形 主に用言に連なる用法で,次の用法がある。
 @文を一旦切って,後に続ける中止法。
 A「読み始む」「寒くなる」のように下の用言を修飾する副詞法。
 B「早き流れ」のように名詞化する。
 C「見送る」のように複合語を作る。
 D助詞,助動詞に連なる。
 
終止形 基本形とも云い,文を言い切る時に用いる。また,助詞,助動詞に連なる。
 
連体形 主に体言を修飾する用法で,次の用法がある。
 @「読む人」のように下の体言を修飾する連体法。
 A「読むは楽し」のように下に来る「こと」「もの」「ひと」などが省略されて名詞
 のように用いる名詞法。
 B係り結びの結びとなる。
 C 助詞,助動詞に連なる
 
已然形 助詞「ど」「ども」「ば」などに連なって,已スデに然ソうなっている確定条件
 を表す。また,係り結びとなる。
 
命令形 言い切りの形や助詞「よ」などに連なって,聞き手への命令,希望などを表す。
  
 次ぎに活用の仕方から四段活用(本稿中「四」と略記する,以下同じ),上二段活用
(上二),下二段活用(下二),上一段活用(上一),下一段活用(下一),カ行変格
活用(カ変),サ行変格活用(サ変),ナ行変格活用(ナ変),ラ行変格活用(ラ変)の
九つの種類がある。
 
 また動詞の働きから,自動詞(本稿中「自動」と略記,以下同じ),他動詞(他動),
補助動詞(補動)などに分けられる。自動詞は「水が行く」のように,動作(「行く」
)を主語(「水が」)だけの働きとして表す動詞を云う。他動詞は「水を流す」のよう
に,動作(「流す」)を他(「水を」)に対する働きかけとして,また「歌を作る」の
ように他を作り出す働きかけとして表す動詞を云う。補助動詞は,他の語に付いて,こ
れに付属的な意味を添える動詞を云う。
 
〈動詞〉
 
あ-が・く(足掻く) (自動・四)@じたばたする。もがく。
 A気をもむ。例「無尽数ムジンズのなやみのなかにあがくさへ・・」
 
あざ-や・ぐ(鮮やぐ) (自動・四)下に「て」「たり」を伴って,口語で,@際だっ
 ている。鮮やかだ,の意。
 Aてきぱきしている。はっきりしている。きっぱりしている,の意。例「をりをりは
 心の底もあざやぎて・・」
 
あ・ふ(敢ふ) (補動・下二)動詞の連用形の下に付いて,多くは打消の語を伴い,口
 語で,・・しきれる。終わりまで・・しおおせる。の意。例「行春ユクハルをかなしみあへず
 若きらは・・」「・・はき吐くに吐き敢へぬ血ぞ鼻ぞしたたる」「(妻の肩の埃)払ひ敢
 へねど見よとも云はず」「高山の暴風雨アラシしぬぎて持敢へし(かうちはかへで)」
 
あふ・つ(煽つ) (他動・四)煽アオる。風などがものを吹き動かすことを云う。例「豆
 がらを空にあふちて倦まざれば・・」
 
あやま・つ(過つ・誤つ) (他動・四)@物事をし損なう。失敗する。間違う。例「・・
 吾は仕事にいくつか錯アヤマつ」
 A過失を犯す。損なう。害する。
 
あ・ゆ(落ゆ) (自動・下二)@ものがこぼれ落ちる。
 A汗などが滴シタタり流れる。滲み出る。例「・・さき来キタる灯に寝つつ汗あゆ」「この峡
 カヒも日でりつづけば汗あえて・・」「苔踏みて汗あえのぼる木洩れ日に・・」
 
あら-だ・つ(粗立つ) (自動・四)@粒,笊ザルの目,縞模様など,合わせて一つにな
 るものを一つ一つの形・嵩カサが大きく目立つようになる。例「向日葵の芯のくろきが
 粗アラだてる・・」
 A手触りなどがざら付く。
 B細かい点までは気を配らず,丁寧でないことを云う。
 
あらら・ぐ(荒らぐ) (他動・下二)荒くする。乱暴に振る舞う。例「(・・父の)いた
 はる母に声をあららぐ」
 
あり-な・る(有り馴る) (自動・下二)馴れてきている。習慣となっている。親しん
 でいる。例「忙しきわが明けくれはありなれぬ・・」
 
あ・る(生る) (自動・下二)生まれる。出現する。例「・・溶接バーナーにいま焔生る
 」「(千曲野の五月・・)土に鳴く虫はまだ生れずかも」「いただきの闇に生れ出づる
 浄きもの・・」「山蚕ヤマコ生るる櫟クヌギの原の色づくを・・」「(ポプラの木)歌よ女工の
 なかにも生れよ」
 
あを-ぎる(青ぎる) (自動・四)「切る」は一線を画して区切りを付ける意のため,
 口語で,色が全く真青だ,の意。例「(鮎は・・)蒼ぎる水に大きくなりて」
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