35 短歌文法「接頭語・接尾語」
 
            短歌文法「接頭語・接尾語」
 
                      参考:飯塚書店発行「短歌文法辞典」
 
〈接頭語〉
 
 名詞,動詞,形容詞などの上に付いて,それらの語の意味を強め,また,ある意味を
添え,或いは,語調を整える。
 
あひ-(相)@動詞などの上に付いて組になり,また,向かい合う関係にあることを表
 す。口語で,一緒に。互いに,の意を添える。例「相触れて帰りきたりし日のまひる
 ・・」「谷ふかく川は激タギちて相せまる・・」「・・落花は落花と相寄り漂ふ」「・・子おの
 づから相こふ今は」
 A動詞の上に付いて,語調を重々しくするのに用いる。例「・・あひみるごとくあかき
 くちびる」
 
い- 動詞の上に付いて,その動詞の意味を強める。例「都べにい行かば帰ること難み・・
 」「い群れては浪の秀ホの上ヘに踊りあがる・・」
 
いち-(逸) 最も優れている。最も激しい,の意を添える。例「・・いちはやき夏の河鹿
 鳴きたり」「うすべにに葉はいちはやく萌えいでて・・」
 
いや-(弥)@いよいよ,ますます,の意を添える。例「なきかはす雲雀のこゑのいや高
 まり・・」「暴風アラシ雨いや募ツノる夜ふけぬ畳の上ヘに・・」「・・いや堪へがたくこと告げ
 むとす」
 A最も,いちばん,非常に,の意を添える。例「きりふりの滝の岩つぼいや広み・・」
 「・・大空にいや高くして汎アマネくしあり」「鈴虫の今年の声はいやさやに・・」「・・虎杖
 イタドリの葉のいや緑なり」「(別離)いやはての字を辿りつつ読む」
 (副詞と考える説もある)
 
うち-(打) 動詞の上の付いて,その意味を強め,又は,語調を整える。例「・・うち続
 きうち重なりて雪の山に迫る」「野火の火の遠見はさびしうちわたす・・」「空ひくく
 光は生アれてうちふるふ・・」「・・背に散らしつゝ打ち黙モダす昼」「遠き岬サキ近き岬々
 サキザキとうちけぶり・・」
 
うら- 心の状態を表す形容詞などの上に付いて口語で,何とはなしに,の意を添える。
 例「老い父や言コトにし触れぬ心ウラ安く・・」「・・眠りといへばうらがなしかり」「・・は
しる子見ればうら歎かるれ」
 
おし-(押) 動詞の上に付いて,その動詞の意味を強める。例「おし黙る一人の歩み昼
 たけて・・」「宵月ヨヒヅキはサフラン色におし光テれり・・」
 
か- 形容詞・動詞などの上に付いて語調を整える。また語勢を強める。例「月い照るか
 かるか黝グロく厳イツカしき・・」「長病みにかよわくなりしをさな子を・・」「日曜の昼の
 湯に居りかよわかる・・」
 
かき-(掻き) 語勢を強める。音便で「かい」「かつ」となる。例「・・にはかにこころ
 かきくらみつれ」「五十段かき数えきて湯の宿の・・」「かいだけば子の胸かすかにふ
 くらむを・・」「かきくらし雨まじり風吹くなべに・・」
 
け-(気) 動詞・形容詞・形容動詞の上に付いて,軽くその意味を強め,また,なんと
 なく,と云う感じを添える。例「つぶやきて心けざむくなりにけり・・」「けながくも
 病み臥すものか夢にさへ・・」
 
さ- 名詞・動詞・形容詞などの上に付いて語調を整える。例「・・騒がしくして小サ夜ふ
 けにけり」「・・小サ庭に出でて春の土踏む」「鶏頭がさゆらぐほどの風のなか・・」
 
ささ(細・小)- 小さいものを賞美して用いる。例「・・目高メダカのにげさまにさゝ濁り
 する春の水哉」
 
さし-(差) 動詞の上に付いてその意味を強め,また語調を整える。例「(・・星一つ)
 さ伸ぶる手に著きてまた一つ」「(牡丹)花重きから縁にさし置く」「さしのぞく感
 じにとどく夕つ光・・」
 
しき-(頻) 頻りに,の意を添える。例「霧らひつつ雨しき降れば向山ムカヤマの・・」「し
 き波がとどろく磯のところまで・・」
 
たち- 動詞の上に付いて,その意味を際立たせるために用いる。例「(みそ萩を野辺に
 折りつる友にあひ)立ち別るるを寂しく思へり」「つとめ終へたちいづるとき雪の上
 に・・」
 
とこ-(常) 不変,永遠の意を添える。例「(桜花)常臥す母の視野をうづむる」「夢
 にたつ常をとめ子は瑞みづと・・」「常みづく黒き砂地に群りて・・」
 
ひた-(直) ひたすら,まったく,一面,直接,ただち,などの意を添える。例「・・見
 えわずかしてひたに恋しき」「・・咳き喘ぎつつひた向ひをり」「庭の石によりゆく今
 日のひたごころ・・」「世の中の尊きものをひた忘れ・・」「(・・終バスの)尾灯消ゆれ
 ばひた病みの海」
 
ほの-(仄) 仄か,かすか,僅か,などの意を添える。例「フクジュソウのかたき莟
 ツボミにほの見ゆる・・」「燈ヒが消えて雪しきりなるほのあかり・・」「ほの白く木苺キイチ
 ゴの花今日も咲けば・・」「橙黄色の花筒クワトウ仄明るく君子蘭クンシラン・・」
 
ま-(真)@名詞の上に付いて,優れた,美しいと云う気持ちを込めて用いる。例「庭石
 を斜ハスにすべれる真冬日の・・」「真命マイノチの極みに堪へてししむらを・・」「紅鱒の腹
 をしぼりて真珠なす・・」「北とほく真澄がありて冬のくもり・・」
 A状態を表す語に付いて,まさに・・である,の意を添える。例「・・びしよ濡れにぬる
 る山に真向ふ」「まかがよふ光ヒの庭にゐて大胆に・・」「真寂しく降りつぐ雨は寒しぐ
 れ・・」「まがなしくいのち二つとなりし身を・・」「(雪山の尾根)まさやなにして年
 あけにけり」
 
み-(御)@尊敬の意を添える。例「ちちのみのちちのみ陰によりまして・・」
 A美しいと云う気持ちを込めて用いる。また,語調を整える。例「おのづからみ冬に
 むかふ寒風サムカゼは・・」「み空より降る光りに目くるめき・・」
 
もの-(物) 形容詞の上に付いて,なんとなく,の意を添える。例「廚辺クリヤベに青き
 菜見ればもの恋し・・」「ものたゆき一日ヒトヒなりしが夕光カゲに・・」
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