33b 短歌文法「助詞」
しか(終助)(「しが」とも言う) 自己の願望を表す。口語で,・・したいものだ,の
意。動詞の連用形,完了の助動詞「つ」の連用形「て」,「ぬ」の連用形「に」など
に付く。例「(山百合の花)・・あつめし中に一夜寝てしか」「・・心の尉ジョウと思ひて
しかな」
し-かも 間投助詞「し」に終助詞「かも」が連なったもの。疑問を表す語に付いて,疑
問,不定,反語の意を強める。例「海を越えて北の国あり何しかも・・」「生き喘ぐ田
作村へ何しかも・・」
して(格助)@その動作を行う人数・範囲を表す。口語で,・・で,の意。例「さはしと
いふ二人をしひて三人して・・」「・・夫婦メヲトして河を漕ぎのぼるなり」
A使役の対象を表す。口語で,・・に。・・に命じて,の意。例「われをして多くの歌を
よましめし・・」「暁の外の雪見んと人をして・・」
[以上体言と格助詞に付く]
して(接助)@並列を表す。口語で,・・て。そうして,の意。例「その眼マナコあきらけく
してあな清サヤけ・・」「魯オロカにしてまことなりしかば妻子らに・・」
A順接の条件で下に続ける。∴連用修飾語に付いて状態を表す。口語で,・・の状態で,
の意。例「胸にいだくうたがひいまだとけずして・・」「・・迷ひ多くして街ゆくときに
」「東国はつね重くしてひた叛ソムく・・」∴原因,理由を表す。口語で,・・ので,の意。
例「病み病みて離婚されし例多くして・・」∴格助詞「に」「と」に付いて状態を表す。
例「・・たちまちにして塒ネグラしづまる」「・・今もあこがれの対象として」「・・新宿の
高層ビルは背景にして」「この母を母として・・」「ことごとく咲くまへにして花序こ
ぞる・・」∴格助詞「に」に付いて場所を表す。口語で,・・在って,の意。例「・・堅く
とどまるなかぞらにして」[以上は,動詞を除いた活用語の連体形と,格助詞などに
付く]
しも(副助) 間投助詞「し」に係助詞「も」が連なったもの。@強調することを表す。
∴特にその事柄を取り立てて示す。口語で,正に,の意。例「とこやみの千尋のやみ
の底にしも・・」「兄としも師としもなりて守りたまへ・・」「二つ三つ見てしも既に雀
躍コヲドリす・・」∴限定して示すことを表す。口語で,ほかのものはともかく。少なくと
それは,の意。例「如何ならむ世にしも民は生きにきと・・」「今はしもかぎりと見る
にをさな顔・・」
A打消の語と呼応して,口語で,必ずしも・・ではない,の意を表す。例「・・相見れば
憎くしもあらず」「ここをしも終ツイの棲家とおもはねど・・」[以上は,体言を始めい
ろいろな語に付く]
すら(副助)@ある一つのことを特に強調する。口語で,・・でも。・・でさへも,の意。
例「・・汚水すらだに音立てにける」「病もつわが身すらだに駆りたてし・・」「・・した
たれるすら聞こゆる寺ぞ」
Aある事を特に強調して他のものを類推させる。口語で,・・だって。・・だけでも,の
意。[以上体言,副詞,助詞「や」,活用語の連体形などに付く]
そ(終助) 副詞「な」と呼応し,カ変,サ変を除く動詞の連用形を「な・・そ」の間に
挟み,禁止を表す。口語で,・・するな。・・してくれるな,の意。また「そ」だけで禁
止の意を表す。動詞,助動詞の連体形に付く。カ変,サ変は未然形。例「春の鳥に鳴
きそ鳴きそあかあかと・・」「・・ひとみつぶらに生きよ嘆きそ」
ぞ(係助)@文中で用いる場合,次の様になる。∴一つの事物を強く指示する。例「・・
あかあかと見えゆく頃ぞ山は悲しき」∴叙述を強める。口語で,実に,の意。例「初
冬の寒き光の身にぞ染む・・」∴疑問語と共に用いて不定の意を表す。「ぞ」を受けて
終止する活用語は連体形で結ぶ(流 れてもよい)。例「誰 ぞ誰ぞ誰ぞわが心鼓ウつ
春の日の・・」「笛の音はいづこぞ誰ぞなつかしき・・」
A文末で用いる場合(終助詞とする考えもある)。∴断定する意を表す。例「・・夕岸
を行き鎮めがたきぞ」∴疑問語と共に用いて,問い糺す意を表す。例「・・思ふは誰の
身のうへぞそも」[以上体言,活用語の連体形,助詞などに付く]
そ-ね(終助)
副詞「な」に呼応する禁止の終助詞「そ」に,願望を表す終助詞「ね」が連なったも
の。口語で,・・しないでくれ,の意。動詞,助動詞の連体形に付く。カ変,サ変は未
然形。例「・・吾がをさなきが足な刺しそね」「・・ものな言ひそね君見むも憂し」
ぞ-も(終助) 指示する係助詞「ぞ」に詠嘆の終助詞「も」が連なったもの。感動を以
て強く指示する。口語で,一体・・なのだろう,の意。体言,活用語の連体形,助詞に
付いて,疑問語と共に用いられる。例「・・死にかかはるは何のゆゑぞも」「・・触りつ
つ居るは何ナニの幸ぞも」「・・何葬ハフらむと出でし風ぞも」
だに(副助)@最小限の一事を取り出し強調する。口語で,せめて・・だけでも,の意。
意志・命令・願望・打消の意などを表す文に用いる。例「・・しづけき見れば音だにも
せよ」「一人だに優しく生きて終りたき・・」
A軽いものを挙げて,他の重いものを推測させる。口語で,・・だって。・・のようにも
のでも,の意。「・・富みし思ひ出のひとつだになし」「もろもろのつみとが深きわれ
をだに・・」[以上文節に付く]
だも(係助) 副助詞「だに」に,係助詞「も」が連なった「だにも」の略。軽いもの
を挙げて他の重いものを推測させる。口語で,・・でも。・・だって,の意。文節に付く。
例「葉の雫花にこぼれて光るだも・・」「木の下モトの冬草にだも照りたまふ太陽オホヒの・・
」「・・宝石のひとつだもなく秋のしづけき」
つ(格助) 所属を表し,口語で,・・の,の意。体言に付く。例「つぎつぎに氷をやぶ
る沖つ波・・」「・・天つさ夜風響きつつ過ぐ」「・・曇のふるふ昼つ方カタあはれ」「天つ
日に貝がら光る草生クサフゆき・・」
つ(接助)@二つの動作・作用が同時に行われるとき,従属的な方に付ける。口語で,
・・ながら,の意。例「わが胸に触れつかくるゝものありて・・」「・・・・胸壷しみつ聴き
てゐたるも」
A「・・つ・・つ」の形で用いる。口語で,・・たり・・たり,の意。例「・・沖つ波崩れつ湧
きつひた寄りに寄る」
B口語で・・たりなどして,の意。例「・・あざむきはてつあざむかれつつ」
[以上動詞の連用形,又はその音便に付く。]
つつ(接助)@同じ動作・作用が繰り返し行われることを表す。口語で,・・ては・・して。
・・し,また・・する,の意。例「牛を追ひ牛を追つつこの野辺に・・」
A二つの動作が同時に行われることを表す。口語で,・・ながら,の意。例「水辺の樹
しきりに花を降らせつつ・・」「・・はろばろしさを仰ぎつつ聞く」
B動作・作用の継続を表す。口語で,し続けて,の意。例「云ひつつ・・欲りつつ・・」
C詠嘆を表す。例「・・臨終イマハの母の脛スネさすりつつ」
D意に反することを表す。口語で,・・にも拘わらず。・・な がらも,の意。例「・・一
たび見つつ二たびを見む」「考課表書きつつ辛し浮びくる・・」
[以上,動詞と助動詞の連用形に付く。]
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