28a 布帛を詠める和歌
 
△糸
河内女カフチメの手染めの糸をくりかへし 片糸に有れど絶えむと念へや
                             (萬葉集 七譬喩歌)
 
なつ引の手びきの糸をくりかへし ことしげくとも絶えむと思ふな
                      (古今和歌集 十四恋 読人しらず)
 
ぬれつゝもくると見えしは夏引のてびきにたえぬ糸にや有けん
                     (後選和歌集 十三恋 よみ人しらず)
 
あやめ草てびきのいとの身にかけて 永日くらし人ぞ恋しき(中務集)
 
あふまではおもひもよらず夏引の いとおしとだにいふときかばや
                         (金葉和歌集 七恋 源雅光)
 
わぎもこがこやのしのやのさみだれに いかでほすらん夏引の糸
                       (詞花和歌集 二夏 大蔵卿匡房)
 
くは原の里のひきまゆひろひあげて 君もや千世の衣いとにせん(源重之集 上)
 
さのみやはさすがにたえぬしけいとの ふしふしおほく思ひみだれん
                            (新撰六帖 五 行家)
 
△麻糸
をとめらが続麻ウミヲのたゝりうち麻ソかけ うむときなしに恋ひわたるかも
                        (萬葉集 十二古今相聞往来歌)
 
処女等ヲトメラが 麻笥ヲケに垂れたる 続麻なす 長門の浦に(下略)
                             (萬葉集 十三雑歌)
 
賎のめが糸にするてふ麻のをの よるとみぬまですめる月哉
桜麻の思ひおもはずいかにして 人の心をかなひきてみん
                          (以上、七十一番歌合 下)
 
△絡糸
吾がもたる三相ミツアヒに搓ヨれる糸もちて つけてましもの今ぞ悔しき
                         (萬葉集 四相聞 阿倍郎女)
 
片よりに糸をぞ吾が搓ヨる吾が背児セコが 花橘をぬかんともひて(萬葉集 十夏相聞)
 
玉緒タマノヲを片緒カタヲに搓ヨりて緒を弱み 乱るゝ時に恋ひざらめやも
                        (萬葉集 十二古今相聞往来歌)
 
あふ事のかたいとぞとは知ながら 玉のをばかりなにゝよりけん
                     (後撰和歌集 九恋 これたゞのみこ)
 
かた糸のこれかれよそによられつゝ 逢なん後は何かたゆべき(古今和歌集 五錦綾)
 
△製糸具
をとめらが積麻ウミヲのたゝり打麻ウチソかけ うむときなしに恋ひわたるかも
                        (萬葉集 十二古今相聞往来歌)
 
吾妹児ワギモコに恋ひて乱るゝくるべきに かけてしよしとわが恋ひそめし
                              (萬葉集 四相聞)
 
くる人もなきおく山の滝のいとは 水のわくにぞまかせたりける
                     (後拾遺和歌集 十八雑 中納言定頼)
 
△綿
一村も曇るとみゆるめなし綿 おなじ色なる月のさやけき(七十一番歌合 下)
 
我恋の心一つにしのぶ綿 つみしらすべき便なければ(同)
 
白縫シラヌヒの筑紫ツクシの綿ワタは身につけて いまだはきねど暖かに見ゆ(萬葉集 三雑歌)
 
△布
筑波ねにゆきかもふらるいなをかも かなしきころがにぬほさるかも
                             (萬葉集 十四東歌)
 
(前略)荒妙の 衣の袖は ひるときもなし(冠辞考 一 萬葉巻二)
あらたへの布衣ヌノギヌをだにきせがてに(下略)(同巻五)
(前略)荒妙の藤原がうへに(同巻一)
(前略)あらたへの藤井が原に(同)
(前略)荒栲の藤江の浦に云々(同巻三)
 
(前略)白妙の衣ほしたる(中略)(冠辞考 四 萬葉巻一)
白妙の天領巾アマヒレごもり云々(同巻二)
大殿を ふりさけ見れば 白たへの 飾り奉りて うち日刺す 宮の舎人は たへのほ
の 麻衣アサギヌきれば云々(同巻十三)
 
△麻布
世をいとひこのもとごとに立よりて うつぶしぞめのあさのきぬなり
                          (古今和歌集 十九誹諧歌)
 
一筋の霜かとぞみる賎のめが をる麻ぬのゝ月の夜さらし(七十一番歌合 下)
 
△葛布クスヌノ
剣タチのしり 鞘にいりぬに 葛引く吾妹 真袖マソデもて きせてむとかも 夏葛引くも
                              (萬葉集 七雑歌)
 
をみなへしおふる沢辺サハベのまくず原 いつかもくりて我が衣キヌにせむ
                             (萬葉集 七譬喩歌)
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