26b 植物を詠める和歌[草/蓼〜蓮〜蒡牛子]
 
△蔦ツタ
年をへて苔にうもるゝ古寺の 軒に秋あるつたの色かな
                      (玉葉和歌集 五秋 前大僧正慈鎮)
 
△葵
あふひ草照日は神のこゝろかは 影さすかたに先なびくらむ
                      (千載和歌集 三夏 藤原もととし)
 
△菫菜スミレ
春野ハルノヌにすみれ採ツみにと来コし吾れぞ 野ヌをなつかしみ一夜ヒトヨねにける
                      (萬葉集 八春雑歌 山部宿禰赤人)
 
山振ヤマブキの咲きたる野辺ヌベのつぼすみれ 此の春の雨に盛りなりけ(同 高田女王)
 
△菱ヒシ
ゐぐひつく かはまたえの ひしがらの さしけくしらに(下略)
                             (日本書紀 十応神)
 
君がため浮沼ウキヌの池の菱採ると 我が染めし袖ぬれにけるかも(萬葉集 七雑歌)
 
△人参
御薬なにか御用候にんじん かんざうけいしん候ぢんも候(七十一番歌合)
 
△芹
みよしのの よしののあゆ あゆこそは しまへもよき あくるしゑ なきのもと、せ
りのもと、あれはくるしゑ(日本書紀 二十七天智)
 
あかねさすひるはたたひてぬばたまの よるのいとまにつめる芹子セリこれ
ますらをとおもへるものをたちはきて かにはのたゐにせりぞつみける
                            (以上、萬葉集 二十)
 
ね芹摘春の沢田におり立て 衣のすそのぬれぬ日ぞなき(曽根好忠集)
 
いたづらにあるゝそのふのはたけぜり 侘しげにても有世成けり
                            (新先六帖 六 知家)
 
△平地木カラタチバナ・山橘ヤマタチバナ・山牡丹
足引の山橘の色に出でて 語言カタラい継ぎて相ふ事もあらむ
                         (玄同放言 二(萬葉集四))
此の雪のけのこす時にいざ帰へな 山橘の実のてるも見む(同(萬葉集十九))
けのこりのゆきにあへてるあしびきの やまたちばなをつとにつみこな
                             (同(萬葉集二十))
 
△龍胆リンダウ・リウタン
風さむみなく雁がねの声すなりうたむ衣をまづやかさまし(伊勢集)
 
我やどの花ふみしだくとりうたん 野はなければやこゝにしもくる
                       (古今和歌集 十物名 とものり)
 
川かみにいまよりうたんあじろには まづもみぢばやよらんとすらん
                     (拾遺和歌集 七物名 よみ人しらず)
 
△蒡牛子アサガホ・ケニゴシ
秋野アキノヌに咲きたる花をおよびをり かき数ふれば七種ナナクサの花
芽ハギが花をばな葛花瞿麦ナデシコの花 姫部志ヲミナヘシまた藤袴朝貌アサガホの花
                   (以上、萬葉集 八秋雑歌 山上臣憶良) 
 
こいまろび恋はしぬともいちじろく 色には出でじ朝容貌アサガホの花
                             (萬葉集 十秋相聞)
 
うちつけにこしとや花の色をみん おく白露のそむるばかりを
                     (古今和歌集 十物名 やたべの名実)
 
我やどの花のはにのみぬるてふの いかなるあさかほかよりはくる
わすれにし人のさらにも恋しきか むけにこしとはおもふ物かは
                  (以上、拾遺和歌集 七物名 よみ人しらず)
 
あさがほを何はかなしとおもひけむ 人をも花はさこそみるらめ
                    (拾遺和歌集 二十哀傷 藤原道信朝臣)
 
けさのまの色にやめでんをく露の きえぬにかゝる花とみるみる
                           (源氏物語 四十九寄生)
 
朝がほのとくゆかしさにおきたれば われよりさきにつゆはゐにけり(赤染衛門集)
 
あさがほの花一ときも千とせ経る 松にかはらぬこゝろともがな(駿台雑話 二)

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