26a 植物を詠める和歌[草/蓼〜蓮〜蒡牛子]
 
△巻耳ミミナグサ
つめどなをみゝな草こそつれなけれ あまたしあれば菊もまじれり(枕草子 七)
 
△蓮ハス・ハチス
御佩ミハカシを 剣の池の 蓮葉ハチスバに たまれる水の 往方なみ 我がせる時に 相はん
と うらへる君を な寝そよと はゝきこせども 吾が情ココロ 清隅キヨスミの池の 池の底
吾れは忍ぬばず ただに相ふまでに(萬葉集 十三相聞)
 
蓮葉ハチスバはかくこそあるもおき麻呂が 家なるものはうもの葉に有らし
                         (萬葉集 十六有由縁並雑歌)
 
勝間田カツマダの池は我れ知る蓮ハチス無し しか言ふ君が髭なきがごと(同)
 
久堅の雨もふらぬか蓮ハチスばに たましる水の玉に似たる見ゆ(同)
 
はちすばのにごりにしまぬ心もて なにかは露を玉とあざむく
                        (古今和歌集 三夏 僧正遍昭)
 
すましかね心の水はにごるとも むねのはちすはひらけざらめや
                            (新撰六帖 六 家良)
 
世にこゆるねがひはむねの蓮にて たのむよりこそ又むかふらめ(同 為家)
 
△蓴ヌナハ
みづたまる よさみのいけの ゐぐひうち ひしがらの さしけるしらに ぬなはくり
はへけくしらに わがこゝろしぞ いやをこにして いまぞやしき(古事記 中応神)
 
かくれぬのしたよりおふるねぬなはの ねぬなはたゝじくるないとひそ
                      (古今和歌集 十九俳諧 たゞみね)
 
河上のあらふの池のうきぬなは うきことあれやくる人もなき(曽根好忠集)
 
年ごとに春はくれども池水に おふるぬなははたえずぞ有ける
                      (拾遺和歌集 十六雑春 したがふ)
 
△五味子サネカヅラ
春ののに緑にはへるさねかづら 我きみざねとたのむいかにぞ(大和物語 上)
 
なにしおはゞあふさか山のさねかづら 人にしられでくるよしもがも
                      (後撰和歌集 十一恋 三条右大臣)
 
△牡丹・廿日草ボタン・ハツカグサ・フカミグサ(名取草)
名ばかりは咲ても草のふかみ草 花の比とはいかでみてまし(蔵玉和歌集 夏)
 
折人のこゝろなしとやなとり草 花みる時はとがもすくなし(同)
 
△烏頭フシ・ウヅ・トクキノヤ
あさましやちしまのえぞのつくるなる とくきのやこそひまはもるなれ
                               (袖中抄 二十)
 
△大豆オホマメ・マメ・ダイヅ・ソヤシマメ
いさりせしあまのをしへしいづくそやしまめぐるとてありといひしは
                       (拾遺和歌集 七物名 高岳相如)
 
こひすればやせちのまめのさるなかせ 涙の川は我ぞましける(七十一番歌合 中)
 
△倭豆ヘンツ・アチマメ・ハホマメ(這豆)
みちのべのうまらのうれにはほまめの からまるきみをはかれかゆかむ
                               (萬葉集 二十)
 
△葛クズ・カヅラ
三諸ミムロの 神名備山カミナビヤマに(中略) 玉葛タマカヅラ 絶ゆる事無く ありつゝも 止
まず通はむ(下略)(萬葉集 三雑歌 山部宿禰赤人)
 
夏葛ナツクズの絶えぬ使いのよどめれば 言コトしもあるごと念ひつるかも
                              (萬葉集 四相聞)
 
△藤
藤波の花は盛りに成りにけり 平城ナラの京ミヤコをおもほすや君
                      (萬葉集 三雑歌 防人佑大伴四縄)
 
ぬれつゝぞしゐて折つるとしの内に 春はいくかもあらじと思へば
咲花のしたにかくるゝ人おほみ ありしにまさる藤のかげかも(以上、伊勢物語 下)
 
よそのみて帰らん人に藤の花 はひまつはれよ枝はおるとも
                        (古今和歌集 二春 僧正遍昭)
我宿にさける藤浪たちかへり すぎがてにのみ人のみるらん(同 みつね)
 
世中の浅き瀬にのみ成ゆけば 昨日のふちの花とこそみれ(大和物語 上)
 
むらさきの雲たちまがふふぢのはな いかにおらましいろもわかれず
                           (栄花物語 三十二歌合)
 
△萩
芽ハギの花乎花ヲバナ葛花瞿麦ナデシコの花 姫部志ヲミナヘシまた藤袴朝貌アサガホの花
                        (萬葉集 八秋雑歌 山上憶良)
 
九月ナガツキの しぐれの秋は 大殿の 砌ミギリしみみに 露おひて 靡ける芽子ハギを 
珠手次タマダスキ 懸けて偲ばむ(下略)(萬葉集 十三挽歌)
 
△真辟葛マサキカヅラ
皇祖スメロギの神の宮人冬薯蕷マサキヅラ弥イヤとこしきに吾れかへり見む(萬葉集 七雑歌)
 
み山には霰ふるらしと山なる まさきのかづら色付にけり
                        (古今和歌集 二十大歌所御歌)
 
てる月を正木のつなによりかけて あかず別るゝ人をつながん
                      (後撰和歌集 十五雑 河原左大臣)
かへし
かぎりなき思のつなのなくばこそ 正木のかづらよりもなやまめ(同 行平朝臣)
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