26　植物を詠める和歌［草／蓼〜蓮〜蒡牛子］
　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　参考：吉川弘文館発行「古事類苑」
　
△蓼ﾀﾃ･ﾀﾃﾞ･ﾎﾀﾃﾞ
吾が屋戸ﾔﾄﾞの穂蓼ﾎﾀﾃﾞ古幹ﾌﾙｶﾗつみ生ふし　実に成るまでに君をし待たむ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（萬葉集　十一古今相聞往来）
　
小児ﾜﾗﾊども草はな苅りそや八穂蓼を　穂積のあそが腋草ﾜｷｸｻをかれ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（萬葉集　十六有由縁並雑歌）
　
みな月のかはらに生るやほたでの　からしや人にあはぬ心は（古今和歌六帖　六）
　
さぎのとぶ川辺のほたで紅に　夕日淋しき秋の水かな（新撰六帖　六　家良）
　
かひもなしほたでふるからからくのみ　身のうきふしはおもひつめども（同　為家）
　
うき世には身をのみつみし水たでの　からきめにこそなみだおちけれ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（夫木和歌抄　二十八蓼　光俊朝臣）
　
水たでのほづみにかよふ村とりの　たちゐにつけて秋ぞかなしき
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（同　後光明峯寺摂政）
　
からきかなかりもはやさぬいぬたでの　ほになる程にひく人のなき
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（夫木和歌抄　二十八蓼　民部卿為家）
　
△蕎麦ｿﾊﾞ･ｿﾏﾑｷﾞ
ぬす人はながばかまをやきたるらん　そばをとりてぞはしりさりぬる
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（古今著聞集　十二倫盗　僧都澄恵）
　
ひたはへてとりだにすへぬそまむぎに　しらつきぬべきこゝちこそすれ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（古今著聞集　十二飲食　道命阿闍梨）
　
△大根ｵﾎﾈ･ｶｶﾞﾐｸﾞｻ･ｽｽﾞｼﾛ
さき草の中にもはやきかゞみぐさ　やがて御調にそなへつる哉（蔵玉和歌集　春）
　
△蕪菁ｶﾌﾞﾗ･ｱｦﾅ･ｸｸﾀﾁ・ｽｽﾞﾅ
名ぐはしき　み河のくにの　にひばりの　にひ御世すらを　そこにしも　ひらきたまひ
し　大君の　恵のひろに　大御名を　高すのはまの　にひばりに　つくるあをなは　ひ
さかたの　あめはさゆれど　あらがねの　つちはこほれど　いや生に　おひしみにけり
大君の　おなじみすゑの　吾君の　みけにつみ来て　冬ごもる　時にはあれど　御こゝ
ろを　はるのみまけと　みさかえも　千代のわかなと　けふたてまつる
反歌
天ぎらしみ雪降ども三河なる　しかすがにこそなは栄えけれ（賀茂翁家集　二長歌）
　
かみつけのさぬのくゝたちをりはやし　あれはまたむゑことしこずとも
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（萬葉集　十四東歌）
　
山たかみはなの色をもみるべきに　にくゝたちぬる春がすみ哉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（拾遺和歌集　七物名　すけみ）
　
△菘･高菜ﾀｶﾅ（菘菜ｱｦﾅ）・菜
やまがたにまけるあをなもきびびとと　ともにしつめばたぬしくもあるか
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（古事記　下仁徳）
　
春がすみにくゝくたちぬる花のかげに　うるや菜さうも心あらなむ
さだめをく宿もなさうのあさ夕に　かよふ内野の道のくるしさ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（以上、三十二番職人歌合　なうり）
　
△薺ﾅﾂﾞﾅ
みそのふのなづなのくきも立にけり　今朝の朝なに何をつまゝし（曽根好忠集）
　
君がため夜ごしにつめるなゝ草の　なづなの花を見てしのびませ（散木葉歌集　一春）
　
雲をうすみかきねにつめるからなづな　なづさはまくのほしき君哉
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（拾遺和歌集　十六雑歌　藤原長能）
　
△覆盆子ｲﾁｺﾞ
連歌
もる山のいちごさかしくなりにける（北条四郎時政）
むばらがいかにうれしかるらん（古今著聞集　五和歌　大将源頼朝）
　
△草下毛ｼﾓﾂｹ
しもつけの花とみるこそかひなけれ　人のとふべきみかはと思へば
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（和泉式部続集　下）
　
恨みても何にかはせん花みると　今朝しもつけぬ心せばさは（散木葉歌集　十隠題）
　
△瞿麦･石竹ﾅﾃﾞｼｺ･ﾄｺﾅﾂ
石竹ﾅﾃﾞｼｺの其花にかもあさなあさな　手にとりもちてこひぬ日なけん
みわたせばむかひの野べの石竹の　をちなくをしもあめなふりこそ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（以上、塵袋　三　萬葉集）
　
吾がやどの瞿麦の花盛りなり　手折りて一目見せむこもがも
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（萬葉集　八夏雑歌　大伴家持）
　
ひともとのなでしこうゑしそのこころ　たれに見せむとおもひそめけむ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（萬葉集　十八）
　
ちりをだにすへじとぞ思さきしより　いもとわがぬるとこ夏の花
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（古今和歌集　三夏　みつね）
　
われのみや哀と思はむ蛬ｷﾘｷﾞﾘｽ　なくゆふかげのやまとなでしこ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（古今和歌集　四秋　素性法師）
　
かひなきはおなじかきほにおふれども　よそふるからのなでしこの花
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（和泉式部集　五）