23b 植物を詠める和歌[梅〜榊〜竹]
△柿
秋くれば山の木のはのいかならん そのふのかきはもみぢしにけり
(夫木和歌抄 二十九柿 民部卿為家)
秋はきぬいまやまがきのきりぎりす よなよななかむ風の寒さに
(古今和歌集 十物名 よみ人しらず)
△ひゝらぎ(柊)
世中は数ならずともひいら木の 色にいでゝはいはじとぞ思ふ
(夫木和歌抄 二十九ひいら木 民部卿為家)
△女貞ヒメツバキ・ネズミモチ
かた山のをどろにまじるねずもちの ひく人ありとたのむべきよか
(夫木和歌抄 二十九ねずもち 民部卿為家)
△山茶科ハタツモリ
里人やわか葉つむらんはたつもり とやまも今は春めきにけり(新撰六帖 六 家良)
しられぬにかさなる山のはたつもり はたつもり行つみぞかなしき(同 為家)
△楸ヒサギ
烏玉の夜のふけゆけば久木ヒサキ生ふる 清き河原に知鳥チドリしば鳴く
(萬葉集 六雑歌 山部宿禰赤人)
浪間より見ゆる小島の浜久木 久しくなりぬ君に相はずして
(萬葉集 十一古今相聞往来歌)
ひさ木おふるさほの河原に立千鳥 空さへきよき月になく也
(夫木和歌抄 二十九楸 従二位家隆卿)
△売子木カハチサノキ
気イキの緒に念へる吾れを山ちさの 花にか君が移ろひぬらむ(萬葉集 七譬喩歌)
あし引の山ちさのはな露かけて さける色これ我みはやさん(新撰六帖 六 家良)
咲とだにたれかはしらむ白雲の 晴せぬやまの山さちの花(同 為家)
△そはの木
ありとても人にすさめぬそばの木の たゞかたそばにすごすべき哉
(夫木和歌抄 二十九そはの木 民部卿為家)
△寄生
やどり木と思ひいでずばこのもとの 旅ねもいかにさびしからまし
あれはつるくち木のもとをやどりぎと 思ひをきけるほどのかなしさ
(源氏物語 四十九寄生)
[竹]
△竹
木にもあらず草にもあらぬ竹のよの はしに我身は成ぬべらなり
(古今和歌集 十八 よみ人しらず)
△苦竹カハタケ・マタケ・ニガタケ
命とて露をたのむにかたければ 物わびしらに鳴のべの虫
(古今和歌集 十物名 しげはる)
△呉竹
よにふれば言の葉のしげき呉竹の うきふしごとに鴬ぞなく
(古今和歌集 十八雑 よみ人しらず)
君が為うつしたうゝるくれ竹に ちよもこもれる心ちこそすれ
(後撰和歌集 二十賀 きよたゞ)
△川竹カハタケ・メタケ
秋山の したへる妹 なよ竹の とをよる子らは(下略)
(萬葉集 二挽歌 柿本朝臣人麿)
さよふけてなかばたけゆく久かたの 月吹きかへせ秋の山風
(古今和歌集 十物名 かげのりのおほぎみ)
うつろはぬなに流れたる河竹の いづれのよにか秋をしるべき
(後撰和歌集゜十八雑 よみ人しらず)
△胡竹
いつかまたこちくなるべき鴬の さへづりそめし夜半の笛竹
(倭訓栞 前編九古(後拾遺集))
△笹ササ
瑞籬の神の御代より篠の葉を 手草にとりて遊びすらしも
(倭訓栞 中編九佐(倭名抄))
本 此さゝは いづこのさゝぞ とねりらが こしにさがれる ともをかのさゝ とも
をかのさゝ
末 さゝわけば 袖こそやれめ とね川の いしはふむとも いざ川原より いざかは
らより
或説
本 さゝの葉に 雪ふりつもる 冬のよに 豊の遊びを するがたのしさ するがたの
しさ
末 みづがきの 神の御代より さゝの葉を たぐさにとりて 遊びけらしも あそび
けらしも
(以上、神楽歌)
△筍
今更に何おひいづらん竹のこの うきふししげき世とはしらずや
(古今和歌集 十八雑 凡河内みつね)
おやのためむかしの人はぬきけるを 竹のこによりみるもめづらし
雪をわけてぬくこそおやのためならめ こはさかりなるためとこそきけ
(以上、赤染衛門集)
よの中にふるかひもなきたけのこは わがへんとしをたてまつるなり
としへぬるたけのよはひは返しても この世をながくなさんとぞ思ふ
(以上、大鏡 五太政大臣伊尹)
△竹実
戸隠のみすゞの竹になれる実は ふりにし神のめぐみなるらむ(甲子夜話 九十)
△竹商
手あたりのよき枝あらばをるもうし 花の囲ひのもかり竹めせ(三十二番職人歌合)
二十八番
うりかぬるじねんご竹の末の露 もとの雫のまうけだになし(同)
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