20e 京都歳時記[花鳥風月]その一
〈六月〉
△蛍
いづちかと夜は蛍ののぼるらん 行方知らぬ草の枕に(新古今集) 壬生忠見
△杜鵑ホトトギス
音羽山今朝越えくれば郭公ホトトギス こずゑはるかに今ぞ鳴くなる(古今集) 紀友則
聞かでただ寝なましものを郭公 なかなかなりや夜半の一声(新古今集) 相模
時鳥ホトトギス鳴きつる方を眺むれば ただ有り明けの月ぞ残れる(千載集) 藤原実定
△郭公ホトトギス
夏の夜のふすかとすれば郭公 鳴く一声に明くるしののめ(古今集) 紀貫之
声はして雲路にむせぶ郭公 涙やそそぐ宵のむら雨(新古今集) 式子内親王
△蝸牛カタツムリ
家を捨てぬ心は同じ蝸牛 たちまふべくもあらぬ世なれど 土御門院
牛の子に踏まるな庭の蝸牛 角のあればとて身をば頼みそ 寂蓮法師
△田植え
早苗とる山田のかけひもりにけり 引くしめなはに露ぞこぼるる(新古今集)源経信
△常夏の花
ちりをだにすゑじとぞ思ふ咲きしより 妹イモとわがぬる常夏トコナツの花(古今集)
凡河内躬恒
白露の玉もてゆへるませのうちに 光さへそふ常夏の花(新古今集) 高倉院
△夏草
夏草はしげりにけりな玉鉾の 道行き人も結ぶばかりに(新古今集) 藤原元真
夏草はしげりになれど郭公ホトトギス などわが宿に一声もせぬ(新古今集) 醍醐天皇
△単衣ヒトエ
かさねても涼しかりけり夏衣 うすき袂タモトに月やどるかげ(新古今集) 藤原良経
花の色に染めし袂の惜しければ 衣がへ憂き今日にもあるかな(和漢朗詠集)源重之
△雨の伝説
天河苗代水にせきくだせ 天降らす神ならば神 能因法師
△鵜飼
鵜飼舟あはれとぞみるもののふの 八十宇治川の夕やみの空(新古今集) 慈円
△夏越祓ナゴシノハライ
風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける(新勅撰集)藤原家隆
ハナショウブ 野生のノハナショウブは東シベリア,中国東北部,朝鮮から,わが国に
は北海道から九州まで広くあります。ハナショウブは江戸時代に江戸において改良さ
れて花弁が大きく広くなり,色も紫・白・絣カスリなど艶やかになりました。昔から有名な
のは江戸の堀 切,伊勢の松阪,肥後の熊本です。現在は明治神宮の内苑に多くの名
品があります。京都においても平安神宮や府立植物園にこれら各地の名品を植えて,
五月のカキツバタの後六月にはハナショウブが美しい。
サツキ 陰暦五月に咲くのでサツキと云います。関東地方西南部以西(滋賀県除く)〜
九州にあります。明治時代に観光のため,種子を散らしたと云います。五月末から七
月まで,庭にも生垣にも朱赤色の花が美しい。半落葉低木で饅頭型に刈り込まれたの
が平安神宮の庭に多い。古くから栽培され,現在では品種は大変多く,栽培の愛好者
も多い。
ササユリ 山地の笹原などに野生します。花は六月から七月,茎の上部に1から5個,
横 向きに咲きます。花は漏斗ロウト状で花被片は10〜15pですが,先が反り返って咲
き,淡 紅色で強い香りがあります。本州(静岡・新潟県以西)・四国・九州に野生
します。「古事記」にはサイと云います。北山においては昭和の初め山遊びの子供が
手に提げたり,花屋が畳の上敷にくるんで町に運ぶのを見ましたが,採り過ぎて無く
なったの でしょう。このユリの栽培は難しい。
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