20 京都歳時記[花鳥風月]その一
 
           京都歳時記[花鳥風月]その一
 
                        参考:淡光社発行「京都歳時記」
 
〈正月〉
 
△雪
 雪降れば冬ごもりせる草も木も 春に知られぬ花ぞ咲きける(古今集) 紀貫之
 花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものは我が身なりけり(新勅撰集) 藤原公経
 
△新年(元旦)
 あらたまの年たちかへるあしたより またるるものは鴬のこゑ 素性法師
 あら玉の今年とやいはん立帰り 春より先に春は来にけり 道助法親王
 
△若水祭
 君が為めみたらし川を若水に むすぶや千代の初めなるらん 俊頼
 
△七草
 けふぞかしなづなはこべら芹つみて はやななくさのお物まゐらん 慈鎮
 
△若菜摘
 み山には松の雪だに消えなくに 都は野辺の若菜つみけり(古今集) 読人しらず
 
△初卯
 ひかげ草花の色々結びもて 初卯の杖を祝ひつけつゝ
 
アカマツ 京都の東山,西山,北山にはアカマツが多い。山の尾根に沿ってアカマツが
 あり,庭にもクロマツと共にアカマツが植えてあります。京都に人が住むまではシイ,
 アラカシその他の常緑広葉樹が多かったが,都となってからはこれらの林を伐ったの
 でアカマツが多くなり,またマツタケも採れてそれが秋には名産となりました。アカ
 マツは,紅葉も落ちてしまった正月には冬にめげない緑が好まれ,門松や松竹梅の床
 飾りとされ,庭の雪持ちの姿も取り分け美しい。
 
カンツバキ 秋に咲くサザンカに近い種で,正月を中心に冬に咲きます。花は散りやす
 いが,寒中に赤い大きな花を沢山開く,丈夫な常緑低木です。雪が積もると,葉の緑
 と,花の赤と,雪の白とが際立って美しい。中国原産のものを,わが国において改良
 したものです。京都の冬は底冷えがすると云われていますが,それでもこの木はぎり
 ぎりに耐えて,冬の京都の街を華やかにします。
 
ナンテン 正月に緑の葉があって,美しい赤い果実を鈴なりに付けるので,床飾りとし
 ます。庭や生垣にもあって,雪を綿のように被って,赤い実が覗いている姿も美しい。
 葉は羽状複葉で小葉の質が堅く,切っても長く生き生きしているので,赤飯や魚を進
 物にするとき,それらの上に載せます。中国から伝来したもので,中国では南天と書
 きますが,わが国では俗に難転ナンテンと解し,食あたりをしない呪マジナイとします。東海
 道地方から九州までの石灰岩地帯などにあります。小鳥がその実を食べてその糞によ
 って繁殖します。
 
マンリョウ 緑に光った葉の下に,小さい赤い実が鈴なりに寄り集まっています。万両
 マンリョウとは昔は大変な価値でしたので,縁起を担いで喜び,同じく常緑で冬に赤い実の
 付くアリドウシ(蟻通し)と共に,「万両ありどう」となる訳です。マンリョウは夏
 に白い小花が開き,冬に赤い実が熟しますが,実は夏まで落ちません。小鳥がその実
 を食べてその糞によって繁殖します。関東地方以西から中国までの暖帯林内に野生し
 ます。
 
〈二月〉
 
△立春
 袖ひちてむすびし水のこほれるを 春立つ今日の風や解トくらむ(古今集) 紀貫之
 み吉野は山も霞みて白雪に ふりにし里に春は来にけり(新古今集) 藤原良経
 
△初音
 鴬の谷よりいづる声なくは 春来ることを誰か知らまし(古今集) 大江千里
  
△猫
 余所ヨソにだによどこも知らぬのら猫の なくねは誰に契りおきけん 寂蓮法師
 まくず原したはひあるく野良猫の なづけがたきはいもがこころか 源仲正
 
△春の水
 氷ゐし水の白波立かへり 春風しきる池の面かな 藤原定家
 春風に下行波のかず見えて 残るともなきうす氷かな 藤原家隆
 
△春の海
 霞行カスミユク波ぢの舟もほのかなり 松浦が沖の春の曙(玉葉集) 院御製
 
△鴬
 鴬のなけどもいまだふる雪に すぎの葉しろきあふさかの山(新古今集)後鳥羽天皇
 
△初午
 きさらぎや今日はつむまのしるしとて 稲荷の杉はもとつ葉もなし 光俊
 稲荷山しるしの杉をたづねきて あまねく人のけふかざすかな 神祇伯顕仲卿
 
ウメ 二月にはウメが咲き始めます。京都においては北野天満宮の梅が最も人気があり
 ます。ウメは中国江南の原産で,古くから観賞し,果実も利用しました。それがわが
 国の古代に伝来し,「万葉集」においてはサクラよりウメの歌が多く,江戸時代まで
 花ではウメの絵が最も多い。京都では散歩しますと香りがするので気が付き,花も美
 しいので見とれて,こうもウメの多いのに驚きます。梅干として広く愛用されますが,
 欧米においてはウメも梅干も利用されていません。ウメは長命で古い品種が残りやす
 く,多くの名品種があります。
 
 梅の花にほふ春べはくらふ山 闇にこゆれどしるくぞありける(古今集) 紀貫之
 大空は梅のにほひに霞みつつ くもりもはてぬ春の夜の月(新古今集) 藤原定家
 
ワビスケ ワビスケはツバキに近いが,種子が出来ないので接木により殖やします。長
 命で,千利休遺愛の株が大徳寺の総見院に生きています。京都にはこの分身が多く,
 庭木になっています。花は小さいが茶花に適し,花の少ない二月に昔から重宝がられ
 ました。花は淡紅紫色で花弁の先が白いが,花弁の白いシロワビスケもあります。ワ
 ビスケに極近いウラクツバキは高台寺の月真院ガッシンインの庭にあり,織田有楽斎ウラクサイ
 遺愛のものを云います。二月から咲きます。
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