1903a 学問に関わる和歌
筆もつひゆがみて物のかゝるゝは 是や難波の悪筆アシデなるらん(塵添埃嚢抄 五)
山しなのやまの岩ねに松をうへて ときはかきはにいのりつるかな(かねもり)
こゑたかくみかさの山ぞよばふなる あめのしたこそたのしかるらし(仲算法師)
(拾遺和歌集 五賀)
しら波ののどけき浦の姫松は 千年の数ぞそひてみえける
此夏のうすき衣は行末の かさねてかゝるをりをたのまん(兼盛集)
ゆふぐれになにはわたりを見渡せば たゞうすゞみのあしで成けり
(続世継 八はらはらの御子)
とこなつの花もみぎはに咲ぬれば あきまで色はふかくみえたり(よしのぶ)
ひさしくもにほふべきかなあきなれど なをとこなつの花といひつゝ(かねもり)
ちぎりけん心ぞながきたなばたの きてはうちふすとこ夏のはな(よしのぶ)
(東三条院瞿麦合)
わかれゆく道の雲ゐになりゆけば とまる心もそらにこそなれ
(後撰和歌集 十九離別 よみ人しらず)
まねけどもうれしげもなし花薄 風にしたがふこゝろとおもへば(散木葉謌集 三秋)
身こそかくしめのほかなれそのかみの 心のうちをわすれしもせず
(源氏物語 十七 絵合)
仏ホトケ造る 真朱マソホ足らずは 水たまる 池田のあそが はなの上を穿ホれ
いづくにぞ 真朱穿るをか 薦畳コモタタミ 平群ヘグリのあそが はなの上を穿れ
(萬葉集 十六有由縁并雑歌)
山水もはるぞ見事のへうほうゑ 花の錦をちうべりにして
(三十二番職人歌合 へうほうゑし)
御無心を申さつまのかみ表具 たゞのりかげんたのみ存る
(後撰夷曲集 九雑 よみ人しらず)
かはらじとかけてちかひしかみ表具 はなればなれの中をことわれ
(江戸職人歌合 下 経師)
あつらへのかぎりのぼせつくださなん 三郎五郎てまの関守(宗長手記)
表具師はぢく軸しくぞ嬉しがる のりの道しる人のお歌合を(香斎)
返し
御返歌の字くばりは天下一文字 上下万民感じこそせめ(信海)(古今夷曲集 九雑)
表具師がしやうふののりは紙よりも 己が命をつぐ物ぞかし(古今夷曲集)
[印刷]
禿はてし文字かたもなきすりかたき こよひの月にあらはかさはや
(東北院職人歌合 経師)
我恋はふりたる経のすりかた木 絶まがちにも成にける哉(七十一番歌合 経師)
いたづらにうらみつるのみ板木ほり ひだり文字なる恋もするかな(我おもしろ 上)
板面 裏見
[印章]
例題歌無し
[紙]
山ちかき入相の鐘の声ごとに こふるこゝろのかずはしるらん(枕草子 十一)
空色の薄雲ひけとから紙の したきらゝなる月の影かな(七十一番歌合 上)
わすらるゝ我身よいかにならがみの うすきちぎりはむすばざりしを
奈良紙 (七十一番歌合 上)
いにしへの忘れがたさにすみなれし 宿をばえこそはなれざりけれ
(空穂物語 蔵開中)
あるゝうらにしほのけぶりはたちけれど こなたにかへす風ぞなかりし
(蜻蛉日記 中上)
雲間なくながむる空もかきくらし いかにしのぶるしぐれなるらん(紫式部日記)
春霞なかしかよひ路なかりせば 秋くる雁はかへらざらまし
(古今和歌集 十物名 しげはる)
ながらへん世にもわすれじすみの江の きしに波たつあきの松風
(栄花物語 三十一 殿上花見)
ほとゝぎすなくねたづねに君ゆくと きかば心をそへもしてまし(枕草子 五)
秋の田のほぐともかりの見ゆるかな 誰おほそらにかきちらすらん
(散木葉謌集 三秋)
かみすき
すきかへし薄墨染の夕暮も しら紙いろに月ぞいでぬる(七十一番歌合 上)
かけまくもかしこきかみのしるしには つるのよはひになりぬべきかな(枕草子 十)
[短冊]
みまくさをもやすばかりの春のひに よどのさへなどのこらざるらん(枕草子 十二)
[懐紙]
例題歌無し
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