1902a 歌集に関わる和歌
 
△勅撰例
朝まだきあらしの山のさむければ ちるもみぢ葉をきぬ人ぞなき(中略)
                               (拾遺抄註 秋)
 
梅のかをよはのあらしの吹ためて まきの板戸をあくるまちけり
                            (袋草紙 三 後拾遺)
 
大ゐ川岩なみたかしいかだしよ 岸のもみぢにあからめなせそ(袋草紙 三 経信卿)
 
浅からぬ心ぞみゆるおとは河 せにいれし水のながれならねど
                      (新古今和歌集 十八雑 周防内侍)
 
おもひやれ心の水のあさければ かきながすべきことのはもなし(詞花集 十雑)
 
いかにして詞の花の残りけむ うつろひはてし人の心に(沙石集 十終)
 
雲の上の月にまじりてえらび置し ことのはみする筆の跡哉(衆妙集 雑)
 
我世にはあつめぬ和歌の浦千鳥 むなしき名をやあとにのこさん(増鏡 十二浦千島)
 
いまぞしるむかしに帰る我みちの まことを神もまもりけりとは
                         (増鏡 十三秋の深山 為世)
 
いまぞしるひろひし玉のかずかずに 身をてらすべき光ありとも
御返し
かずかずにあつむる玉のくもらねば これもわが世のひかりとぞなる
 
和歌の浦の浪もむかしに帰りぬと 人よりさきにきくぞうれしき
かへし
わかのうらやむかしにかへる浪ぞとも かよふ心にまづぞきくらむ
                             (増鏡 十四春の別)
 
△私撰
さをしかのいる野の薄ほのめかせ 秋のさかりに成はてずとも(清輔朝臣集)
 
かみな月しぐれふりおけるならの葉の 名におふ宮のふることぞこれ
                    (古今和歌集 十八雑 文屋のありすゑ)
 
神無月しぐれふりおけるならの葉の 名におふ宮のふることぞこれ(古今)
とぶ鳥のあすかの里をおきていなば 君があたりはみえずかもあらん(万葉)
龍田川紅葉みだれてながるめり わたらばにしき中やたえなん(古今)
ふるさとゝ成にしならの都にも 色はかはらず花ぞ咲ける(古今)
はぎの露たまにぬかんととればけぬ よしみん人は枝ながらみよ(古今)
                           (続世継 十ならの御代)
 
若菜つむ野辺をしみればたかとりの 翁もむべぞたはれあひける(顕昭陳状)
 
△家集
手にむすぶ水にやどれる月影の あるかなきかのよにこそ有けれ
                       (拾遺和歌集 二十哀傷 紀貫之)
 
ひとまきにちゞのこがねをこめたれば 人こそなけれ声は残れり(恵慶法師)
返し
いにしへのちゞのこがねはかぎりあるを あふはかりなき君が玉章(紀時文)
                           (後拾遺和歌集 十八雑)
 
しぐれつゝふりにしやどのことのはゝ かきあつむれどとまらざりけり(中務)
御返し
むかしより名だかきやどのことの葉は このもとにこそおちつもるてへ(天暦御製)
                           (拾遺和歌集 十七雑秋)
 
たづねずばかきやる方やなからまし 昔のながれみ草つもりて
                      (後拾遺和歌集 十八雑 康資王母)
 
よさの浦に老の波かずかぞへつる あまのしわざと人もみよとぞ(曽禰好忠集)
 
花のしべもみぢの下葉かきつめて 木の本よりぞちらんとすらん(祭主輔親卿集)
 
もしほ草猶かきそへてわかの浦に 残れる玉もひろひつくしつ(拾玉集 七)
 
言霊のすがの光を言霊舎ウタノヤの 大人みがゝずばたれかしるべき
                          (月明集 下 五十槻老人)
 
△雑歌集
をぐらやま時雨ふりにしいにしへの あとにもこゆることの葉ぞこれ
                            (扶桑拾葉集 二十三)
 
あめの下行末遠き春の色は 沢辺の徳にあらはれにけり
とゝせあまり八年の春の夢さめて 子日にあへる松の曙(蒙求和歌)
 
沈みつゝ我かきつけし言のはゝ 雲井にのぼる階にぞ有ける(下略)
                               (漢故事和歌集)
 
△歌集伝授
三鳥
百千鳥さへづる春はものごとに あらたまれども我ぞふりゆく(中略)
遠近のたづきもしらぬやまなかに おぼつかなくもよぶこどりかな(中略)
我門にいなおほせ鳥の鳴なへに けさふく風に雁は来にけり(中略)
右三鳥也
みよしのゝ芳野の滝にうかびいづる あにおかたまのきゆとみつらん(中略)
秋は来ぬ今やまがきのきりきりす よなよななかむ風のさむさよ(中略)
かつけども波のなかにはさぐられて 風吹ごとにうきしづむ玉(中略)
右三木也
うば玉の夢になにかはなぐまさん うつゝにだにもあかぬこゝろを(中略)
花の色はたゞひと盛こけれども 返す返すぞ露はそめける(中略)
花の木にあらざらめどもさきにけり ふりにしこのみなる時もがな(中略)
右三草              (以上、古今集勢語源語寂莫草伝 古今集大伝)
 
三鳥
おちこちのたづきもしらぬ山中に おぼつかなくもよぶこどりかな(古今集)
我かどにいなおほせ鳥のなくなべに けさふく風にかりはきにけり(同)
しながどりゐなのふし原とびわたる 鴨が羽音はおもしろきから(拾遺集神楽歌)
                                  (二上峯)
 
玉柏をがたまの木の鏡葉に 神のひもろぎそなへつるかな(茅窓漫録 中)
 
ふりにけるこのした水のあさければ かきつたふべきことのはぞなき
返歌
ちぎりをばあさからずこそむすびしか このした水のなによどむらん(玉海)
 
ちりの身につもれる庭のおしへまで いともかしこく聞えあげてき
                     (新拾遺和歌集 十九雑 民部卿為明)
 
[歌書]
誰もなど拾はざりけん和かの浦に 目なれぬ花ののこる光を
                        (翁草 百二十 後円融院御製)
 
まよはじと心をつけば玉津島 神のちかひもなどかなからん(和歌深秘章 奥書)
[次へ進む] [バック]