17a 和歌学び
なつ山のしげみがしたの思ひぐさ 露しらざりつこゝろかくとは
(続世継 八ふし柴 小大進)
露しげき野べにならひてきりぎりす 我たまくらの下に啼なり
(続世継 七武蔵野草 顕仲)
うすくこきのべのみどりの若草に あとまでみゆる雪のむらぎえ
(増鏡 一おどろの下 宮内卿)
おのがねにつらきわかれのありとだに 思ひもしらで鳥や鳴らん
(井蛙抄 六 藻壁門院少将)
△由歌得異名
下もえの少将
下もえに思ひきえなん煙だに 跡なき雲のはても悲しき(俊成卿女)
ことうらの丹後
わすれじな難波の秋のよはの空 こと浦にすむ月は見るとも
(宜秋門院丹後頼政弟頼行女)
沖の石の讃岐
我袖は汐干に見えぬ沖の石の 人こそしらねかはく間もなし(二条院讃岐頼政女)
ふし柴の加賀
かねてより思ひし事よふし柴の こるばかりなるなげきせんとは(待賢門院女房)
待宵の小侍従
待宵に更行かねの声きけば あかぬわかれの鳥はものかは(阿波局八幡光清法印女)
ものかはの蔵人
ものかはと君がいひけん鳥の音の けさしもなどか恋しかるらん(徳大寺実定公家臣)
初音の僧正
聞たびに珍しければほとゝぎす いつも初音のこゝちこそすれ
(興福寺花林院別当永縁)
沢田の頓阿
月やどる沢田の面にふす鴫の 氷りよりたつあけがたのそら(頓阿法師)
手枕の兼好
手まくらの野辺の草葉の霜枯に 身はならはしの風の寒けさ(兼好法師)
蘆の葉の浄弁
湊江の氷にたてる蘆の葉に 夕霜さやぎ浦風ぞふく(浄弁法師)
裾野の慶運
庵むすぶ山の裾のゝ夕ひばり あがるに落る声かとぞきく(慶運法師)
日比の正広
こすのとにひとりや月のすみぬらん 日比の袖に涙もとめて(招月庵正徹門人)
若草の宮内卿
うすくこく野辺の緑のいろいろに あとまで見ゆる雪の若草
浦はの内侍
たまさかに波の立よる浦々は 何の見るめのかひかあるべき(伊賀少将)
下もえの内侍
恋わびて詠る空のうき雲や わが下もえの烟なるらん(周防内侍)
岩もる少将
思ふとも君はしらじなわきかへり 岩もる水の色しみえねば(少将)
池水にかげをうつして秋のよの 月のなかなる月をこそ見れ(袋草紙 三 高松宰相)
かねてより思しことよふし柴の こるばかりなるなげきせんとは
(古今著聞集 五和歌 加賀)
かねてより思ひし物をふししばの こるばかりなるなげきせんとは
(続世継 八ふし柴)
かつまたのいけもみどりにみゆるかな 岸の柳のいろにうつりて(袋草紙 三 顕仲)
待宵に深行かねの声聞ば あかぬ別の鳥は物かは
物かはと君が云けん鳥のねの けさしもいかに恋しかるらん
またばこそ更行鐘もつらからめ 別を告る鳥のねぞうき
(源平盛衰記 十七 藤原実定)
ちりの世とおもふ心のつもりては 身のかくれ家の山となりける
かねごとも鳥のそらねにはかられて よそに明ゆく逢坂の関(隣女晤言 二)
はつせ路や初音きかまく尋ねても まだこもりくの山ほとゝぎす
(泊泊筆話 一 柳瀬美仲)
をぎの葉の身にしむよりも春風の 花にこゑなきゆふぐれの庭
(寄居歌談 一 松平定信)
△雑載
月よにはこぬ人またもかきくもり 雨もふらなん恋つゝもねん(東斎随筆 人事)
たてまつりあぐるかはべのあやめぐさ ちとせのさ月いつかたへせん
(古今著聞集 十九草木 帥頼卿)
こゝろざすなよ竹の杖よろづとし つきもてのぼる坂のためなり
(隣女晤言 二 澄月法師)
あら磯の岩にくだけてちる月を ひとつになしてかへる浪かな(円珠)
上野の沼田の里にまどかなる 玉のありかをたれかしらまし(中御門天皇)
(松屋叢話 一)
たぞやたれたれかは今日の夫ならん 定めなき世に定なき身は(珊瑚)
川たけのうきが中にも敷島の 道になさけの色は見えけり(武者小路実陰卿)
(松屋叢話 一)
老の身の腰ののびたる杖つきの 乃の字のなりの字のごとくにて(中略)
かたかなのノノノ字ノなりノ似たもノノ 笹ノ葉ノ絵ノ墨ノ一筆
(武者小路実陰卿)(翁草 十)
ひの字十
日の本の肥後の火川の火うち石 ひゞにひとふたひろふひとびと
(視聴草 九集十 細川幽斎狂歌)
の文字十
むさし野のさゝの小笹の露のうへの 夕の月の影の物うさ(客有)
いにしへの事ののこれるみよしのゝ よし野のおくのかげろふの小野
(幽遠随筆 上 客有)
かぎり無き山を幾重かながめ来て それぞれしるき雪の富士の根
(桂林漫録 上 義湾王子)
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