18 国語に関わる和歌
 
                       参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
 
[文字]
△重点
とし月のめぐりくるまのわになりて おもへばかゝるをりもありけり
                             (蜻蛉日記 下之下)
 
△片仮名
ちぎりあらばよきごくらくにゆきあはん まろをにくしむ虫のすがたは
                               (堤中納言物語)
見もわかですぎにけるかなをしなべて 軒のあやめのひましなければ(狭衣 一之上)
かつみれどあるはあるにもあらぬ身を 人のひととや思ひなすらん(同 三之下)
 
△仮名手本
(沓冠折句歌)
春
あらさじと打かへすらしを山田の 苗代水にぬれてつくるあ
めもはるに雪まも青く也にけり 今こそのべのわかなつみてめ
つくば山さける桜の匂ひをば いりてをらねどよそながらみつ
ちくさにもほころぶ花の錦哉 いつら青柳ぬひしいとすぢ
ほのぼのと明石の浜を見渡せば 春の波わけいづる舟のほ
しづくさへ梅の花笠しるきかな 雨にぬれじときてやかくれし
そらさむみむすびし氷打とけて 今やゆくらん春のたのみそ
らにもかれ菊にも枯にし冬ののの もえにける哉を山田のはら
思
ゆふさればいとゞわびしき大井川 かゞり火なれや消かへりもゆ
わすれずもおもほゆる哉朝なあさな しる黒かみのねくたれのたわ
さゝがにのいをだにやすくねぬ比コロは 夢にも君にあひ見ぬがうさ
るり草の葉におく露の玉をさへ 物思ふ時は涕とぞみる
思ひをも恋をもせじのみそぎすと ひとがたなでゝはらふてはおゝ
ふく風につけても人を思ふ哉 天津空にもありやとぞおもふ
せを淵にさみだれ川の成ゆけば 身をさへうみにおもひこそませ
よしの川そこの岩波いはでのみ くるしや人を立ゐこふるよ
恋
えもいはで恋のみまさる我身哉 いつとや岩におふる松がえ
のこりなくおつる涕は露けきを いづらむすびし草村のしの
えもせかぬ涙の川のはてはてや しひて恋しき山はつくはえ
をぐら山おぼつかなくもあひみぬか なくしかばかり恋しき物を
なきたむる涙は袖にみつしほの ひるまにだにもあひみてしがな
れうしにもあらぬ我こそあふことを ともしの松のもえこがれぬれ
ゐてもこひふしても恋るかひもなく かげあさましくみゆる山の井
てる月ももるゝ板まのあはぬよは ぬれこそまされかへす衣て(以上、源順集)
 
[音韻]
△四声
さほひめのいとそめかくるあを柳を ふきなみだりそはるの山風(袖中抄 三)
 
△五十音図
はたすゝきおばなさかふくくろきもて つくれるやどはよろづ代までに(袖中抄 二)
 
文政の十まりふたとせといふ年の きさらぎのなぬかの日
                        (古言衣延弁 たひらのてる実)
 
[国語学]
△仮名道
たのまずはしかまのかちの色をみよ あゐそめてこそふかくなるなれ
                           (年山紀聞 五 俊成卿)
 
ふたつもじ牛のつのもじすぐなもじ ゆがみもじとぞ君はおぼゆる(徒然草 上)
 
逢ことよ今はかぎりのたびなれや 行すゑしらでむねぞもえける(和字正濫要略 乾)
 
△弖(氏+一)爾乎波テニヲハ音便
年をへて花のかゞみとなる水は ちりかゝるをや雲と云覧
大虚は恋しき人のかたみかは 物おもふごとにながめらるらし
山かくす春のかすみぞうらめしき いづれみやこのさかひ成らん
 
かすが山みねの木の間も月なれば 右左にぞ神はまもらん
道とをし入野の原のつぼすみれ 春のかたみにつみてかへらん(以上、秘伝天爾波書)
 
都をば霞と共に立しかど 秋風ぞふくしら川の関(中略)
塩たるゝいせをの海人の袖だにも ほすなるひまは有とこそきけ(中略)
覚束なうるまの島の人なれや 我ことのはをしらず顔なる(中略)
夕月夜さすや庵の柴の戸に 淋しくもあるか日ぐらしの声
あふげどもこたへぬ空の浅みどり むなしくはてぬ行末もがな
東路に不破の関屋の鈴むしを むまやにふると思ひけるかな
君が代にあふ坂山の石清水 こがくれたりと思ひけるかな
忘れては打なげかるゝ夕べ哉 我のみしりて過る月日を
桜さく遠山鳥のしだり尾の ながながし日もあかぬ色哉
三島江の鳰ニホのうきすの乱れ蘆の 末葉にかゝる五月雨のころ(中略)
箱根路を我こえくれば伊豆の海や おきの小島に波のよる見ゆ
時鳥鳴やさ月のみじか夜も ひとりしぬれば明しかねつゝ
人住ぬ不破の関屋の板びさし 荒にし後はたゞ秋のかぜ(中略)
みかの原わきて流るゝ泉川 いつみきとてか恋しかるらむ(中略)
 
我心なぐさめ兼つ更科や おば捨山にてる月を見て     テ
春霞かすみていにし雁がねの 今ぞ啼なる秋霧のうへに   ニ
心あらば人に見せばや津国の 難波渡りの春のけはきを   ヲ
花筐めならふ人のあまたあれば 忘られぬらん数ならぬ身は ハ
                        (以上、二条家秘伝天爾波大事)
 
郭公鳴や五月のみじか夜も ひとりしぬればあかしかねつゝ(悦目抄)
 
△言霊
神代より 云伝イヒツテけらく 虚ソラ見つ 倭の国は 皇神スメガミの いつくしき国 言霊
コトダマの さきはふ国と かたり継ぎ いひつがひけり(下略)
                         (萬葉集 五雑歌 山上憶良)
 
事霊コトダマの 八十衢ヤソノチマタに 夕占ユフケ問ふ 占正ウラマサにのれ 妹にあはんよし
                       (萬葉集 十一古今相聞往来歌類)
 
しき島の 倭国は 事霊の たすくる国ぞ 真福マサキくありこそ
                        (萬葉集 十三 柿本朝臣人麿)
 
ひととせにこよひかぞふる今よりは もゝとせまでの月かげを見て
御かへし
いはひつることたまならばもゝとせの のちもつきせぬ月をこそ見め(大鏡 一醍醐)
 
△語格
かくしつゝとにもかくにもながらへて 君がやちよにあふよしもがな
いつとても月みぬ秋はなきものを わきてこよひのめづらしき哉(かざし抄 上)
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