16c 和歌のこころ
おほ空にてる日の色をいさめても 天の下には誰かすむべき
(新古今和歌集 十八雑 女蔵人内匠)
としをへてかしらに雪はつもれども しもとみるこそみはひえにけれ
(今昔物語 二十四)
さ月やみこゝゐのもりのほとゝぎす 人しれずのみなきわたるかな
(奥義抄 序 兼房朝臣)
夢にだに角て三河の八橋を 渡るべしとは思はざりしを
(平治物語 三 伏見源中納言師仲)
この瀬にもしづむときけば渡川 ながれしよりもぬるゝ袖かな
(古今著聞集 五和歌 別当惟方卿)
あしたづの雲井にまよふ年くれて かすみをさへやへだてはつべき(俊成卿)
御返事
あしたづは雲井をさしてかへるなり けふ大空のはるゝけしきに(後鳥羽院)
(古今著聞集 五和歌)
勅チョクなれば身ふば捨てき武士の やそ宇治河の瀬にはたゝねど
(吾妻鏡 二十五 範茂卿)
逢ことのまたいつかはとゆふだすき かけし誓ひを神にまかせて
頼みこしかもの川水さてもかく たえなば神を猶やかこたん(中略)
(翁草 六十六 大納言為兼卿)
思きや我敷島の道ならで 浮世の事を問るべしとは(太平記 二 二条中将為明卿)
白波と名には立ども吉野川 はなゆゑしづむ身をば惜まじ(西行法師)
西行は鵜といふ鳥ににたるかな なはをかゝりてあゐを食らへば(藍主)
(慈元抄 上)
△歌和夫妻
ふねもこじまかぢもこじなけふよりは うき世のなかをいかでわたらむ
(今昔物語 三十)
われもしかなきてぞきみにこひられし いまこそこゑをよそにのみきけ
(今昔物語 三十)
風ふけば沖つしら波たつた山 よはにや君がひとりこゆらん(大和物語 下)
あさましやみしは夢かととふほどに おどろかずにも成にける哉
(続世継 十敷島の打聞)
かりそめの言の葉草に風立て 露のこの身の置処なき(歌俳百人集 小川ちか女)
△歌禍
昔にも非成夜のしるしには 今夜の月し曇ぬる哉(吾妻鏡 九 僧助公)
くらべこし見ぬもろこしの鳥もゐず 桐の葉わくる秋のみか月(徹書記)
中々になきたまならばふる郷へ 帰らん物をけふの夕暮
(翁草 百六十九)
あはれさは秋ならねども知られけり 鴫立沢のむかし尋ねて
(風のしがらみ 下 大納言雅章卿)
△詠歌判事優劣
冬ごもり 春さり来れば なかざりし 鳥も来鳴きぬ さかざりし 花もさけれど 山
をしみ 入りても取らず 草深み たをりても見ず 秋山の 木葉コノハを見ては 黄葉
モミヅをば 取りてぞしぬぶ 青アヲキをば 置きてぞ歎く そこし恨めし 秋山吾れは
(萬葉集 一雑歌 額田王)
春はたゞ花のひとへにさくばかり 物のあはれは秋ぞまされる
(拾遺和歌集 九雑 よみ人しらず)
しら露はうへよりおくをいかなれば 萩の下葉のまづもみづらん(参議伊衝)
こたふ
さをしかのしがらみふする秋萩は 下葉やうへになりかへるらん(みつね)
同
秋萩はまづさすえよりうつらふを 露のわくとはおもはざらなむ(たゞみね)
又とふ
ちとせふる松のした葉の色づくは たがしたかみにかけてかへすぞ(これひら)
こたふ
松といへど千とせの秋にあひくれば しのびにおつる下葉なりけり(みつね)
(拾遺和歌集 九雑)
冬の夜の空さへさゑわたりいみじきに 雪の降つもりひかりあひたるに
こたへ
あさ緑花も一つに霞みつゝ おぼろにみゆる春の夜の月
今宵より後の命のもしもあらば さは春の夜をかたみと思はん
人はみな春に心をよせつめり われのみやみん秋の夜の月(さらしな日記)
おほかたはあらそふものとしりながら こゝろひとつに秋をさだめん
ふるゆきはつもらでかげもありあけの つきぞくまなきふゆの山ざと
月かげのいでつるかたもわすられて 入かたぞすむわがこゝろかな(下略)
(四十二の物あらそひ)
△公文書歌
みちのくにあだちのま弓引かとて 君にわが身をまかせつるかな
(袋草紙 三 源重之)
よこはしる清みか関にせきすゑて いづちふことはながくとゞめよ(平兼盛)
せきすゑぬそらにこゝろのかよひなば みをとゞめてもかひやなからん(宿女)
(袋草紙 三)
いづみなるしのだの森のあまさぎは もとの古枝にたちかへるべし
(古今ち著聞集 五和歌 源頼朝)
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