1602 和歌のこころ(つづき)
 
△東歌
たまがはに さらすてづくり さらさらに なにぞこの児の ここだかなしき(中略)
にほどりの かつしかわせを にへすとも そのかなしきを とにたてめやも(中略)
信濃道シナヌヂは いまのはりみち かりばねに あしふましむな くつはけわがせ(中略)
いかほろの やさかのゐでに たつぬしの あらはろまでも さねをさねてば
                             (萬葉集 十四東歌)
 
みちのくうた
あふくまにきりたちくもり明ぬとも 君をばやらじまてばすべなし(中略)
さがみうた
こよろぎのいそたちならしいそなつむ めざしぬらすなおきにをれ浪
ひたちうた
つくばねのこのもかのもにかげあはれど 君がみかげにます影はなし(中略)
かひうた
かひがねをさやにも見しがけゝれなく よこほりふせるさやの中山(中略)
伊勢うた
をふの浦にかたえさしおほひなるなしの なりもならずもねてかたらはむ
                           (古今和歌集 二十東歌)
 
あなてりやむしのしや尻に火のつきて こ人玉ともみえわたるぞ
                            (宇治拾遺物語 十二)
 
△外国人詠和歌
韓人
としてなん のんせんとんちや とらすんば ねいきるねいら ちやんばちんぴら
明日はまた誰なからんも知らぬ身に 友ある今日の日社コソ惜けれ
清人
中々に心なからん友よりも 庭の木草の朝夕のつゆ(中略)
いざたとふたつさの澳オキの荒浪の 人の心に秋の来ぬ間に(以上、桂林漫録 上)
 
△幼児詠歌
うぐひすはなどさはなくぞちやほしき こなべやほしきはゝやこひしき(俊頼口伝)
 
神無月しぐれふるにもくるゝ日を 君まつほどはながしとぞ思(後撰和歌集 八冬)
 
二葉よりけふを松とはひかるとも 久しき程をくらべてもみよ(東野州聞書 亮子院)
 
つくづくとながめくらして入あひの かねのおとにも君ぞこひしき
                          (増鏡 十六久米のさら山)
 
九重のみぎりの松にうつりきて 千とせを契る鴬のこゑ
                      (風のしがらみ 下 後桃園皇太子)
 
霜夜月
やまのはの梢あらはにおく霜の 影もさえゆく冬の夜の月
浦千鳥
ゆきかへりしば島つれて友ちどり 声も高けれすまのうら波
野雪
空さむみふりまさるらんしら雪の つもりうつれる冬の夕ぐれ
友千鳥
風さそふ音ぞさみしき夕ぐれに 友よびつれて千鳥なくなり
 
玉ぼこの道のひかりをさしそへて 霜にさえゆく冬の夜の月
                      (以上、兎園小説 五集 石河為蔵)
 
△歌論義
なにはづにさくやこのはなふゆごもり いまははるべとさくやこのはな(俊頼口伝)
 
朝日さすみねのしら雪むらぎえて はるのかすみはたなびきにけり(袋草紙 三)
 
君がうへし一むら薄むしの音の しげき野べとも成にける哉(西公談抄)
 
年の内に春は来にけり一年を 去年とやいはん今年とやいはん(沙石集 五)
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