16b 和歌のこころ
 
△截引古歌
散ぬべきはなをのみこそ尋つれ 思ひもよらずあをやぎのいと
                         (古今著聞集 五和歌 雅通)
 
花見にはむれてゆけども青柳の いとのもとにはくる人もなし
                      (拾遺和歌集 一春 よみ人しらず)
 
わが宿の梅の立枝や見えつらむ おもひの外に君がきませる
                         (拾遺和歌集 一春 平兼盛)
 
かしかましのもせにすだく虫のねよ 我だに物をいはでこそ思へ
                          (十訓抄 一 薩摩守忠度)
 
深山出てはとふく秋の夕暮は しばしと人をいはぬばかりぞ(今物語 下毛武正)
 
たかくとも何にかはせん呉竹の 一よふたよのあだのふしをば(鳴門中将物語)
 
照もせず曇もはてぬ春のよの 朧月夜にしくものぞなき(今物語)
 
△歌徳
例題歌無し
 
△歌感神仏
かはらむとおもふ命はをしからで さてもわかれんほどぞかなしき
                     (今昔物語 二十四 大江正衛妻赤染)
 
なむやくしあはれみたまへ世中に ありわづらふもおなじやまひぞ
                             (撰集抄 八 伊勢)
 
哀とも神々ならば思ふらん 人こそ人のみちはたつとも(十訓抄 四 仁俊女)
 
あまの川苗代水にせきくだせ 天くだります神ならば神
                       (古今著聞集 五和歌 能因入道)
 
ものおもへば沢のほたるも我身より あくがれいづる玉かとぞみる
おく山にたぎりておつる滝つ瀬の 玉ちるばかりものなおもひそ
                       (古今著聞集 五和歌 和泉式部)
 
思ひいづやなき名たつ身はうかりきと あら人神になりしむかしを
                        (古今著聞集 五和歌 小大進)
 
いかにせん行べきかたもおもほえず 親にさきだつみちをしらねば
                       (古今著聞集 五和歌 和泉式部)
 
△歌感人心
いかにふく賀是カゼにあればかおほしまの をはなのすゑをふきむすびたる
                   (日本書紀 十七平城 平群朝臣賀是麻呂)
 
いづくともよゝのひかりはわかなくに まだみよしのゝ山は雪ふる
                             (奥義抄 序 躬恒)
 
おもへきみかしらの雪をうちはらひ きえぬさきにといそぐ心を
                     (今昔物語 二十四 大江匡衛妻赤染)
 
やへやへの人だにのぼるくらゐ山 おいぬるみにはくるしかりけり
くらゐ山たにのうぐひす人しれず 音のみなかれてはるをまつかな
梅の花おなじねよりはおひながら いかなる枝のさきおくるらん
                           (袋草紙 三 藤原清輔)
 
くらゐ山谷の鴬人しれず ねのみなかるゝ春をまつかな(清輔朝臣集)
 
人しれぬ大内山の山もりは 木がくれてのみ月をみるかな(十訓抄 十一 頼政)
 
人しれぬ大内山のやまもりは 木がくれてのみ月をみるかな
返し
いつの間に月みぬ事を歎くらん 光のどけき御代にあひつゝ
まことにや木隠たりし山守の 今は立出て月をみるかな(従三位頼政卿集 雑)
 
上るべきたよりなければ木の本に 椎を拾て世を渡る哉(源平盛衰記 十六 頼政)
 
老の浪よるよる思ひつゞくれば 六十の関も半也けり(塩尻 三十二 三浦導寸法師)
 
山川のあざりとならで沈みなば 深き恨みの名をや流さん(三井寺覚讃僧正)
うらやましいかなる人の渡るらん 我をみちびけ法の橋もり(顕昭法師)
ひきたつる人もなぎさの捨小舟 さすがに法のをしてをぞまつ(信光法眼)
                            (以上、十訓抄 十一)
 
法の橋のしたに年ふるひきかへる 今ひとあがり飛あがらばや(今物語 法橋実賢)
 
あふげども我身たすくる神な月 さてやはつかの空をながめむ(能登前司橋長政)
みがきける君にあひてぞ和歌の浦の 玉も光をいとゞそふらん(隆祐(家隆卿男))
                                  (今物語)
 
君ひとり跡なきあさのみをしらば 残るよもぎがかずをことわれ(いざよひの日記)
 
世中にあさは跡なくなりにけり 心のまゝのよもぎのみして
                       (新勅撰和歌集 十七雑 平泰時)
 
あるがうちにかゝる世をしもみたり剣ケン 人のむかしの猶も恋しき(東下野守常縁)
世中をとほくはかれば東路に いま住ながらいにしへの人(妙椿)
返し
よの中をとほくはからばけふ迄の 君が言葉の花におくれじ(常縁)
故郷の荒るをみてもまづぞ思ふ しるべあらずばいかゞわけこむ(常縁)
返し
此ころのしるべなくとも古郷に 道ある人ぞやすく帰らん(妙椿)
                             (以上、鎌倉大草紙)
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