16a 和歌のこころ
 
△不答
とのもりのとものみやつこ心あらば この春ばかりあさぎよめすな
                        (今昔物語 二十 敦忠中納言)
 
此世をば我よとぞ思もち月の かけたる事もなしとおもへば
                   (続古事談 一王道后宮 藤原道長女威子)
 
あふさかの関のあなたもまだみねば あづまのこともしられざりけり
                        (今昔物語 二十四 大江正衛)
 
大江山いくのゝ道のとをければ まだふみもみずあまのはしだて
みな月のてる日のかげはさしながら 野辺もや秋のにしきなるらん
                            (袋草紙 一 定頼卿)
 
われといへばつらくもあるかうれしさは 人にしたがふ名にこそありけれ
                        (古今著聞集 五和歌 顕輔卿)
 
△用古歌代己作
としふればよはひは老ぬしかはあれど 花をし見れば物おもひもなし
しほのみついつものうらのいつもいつも 君をばふかくおもふはやわが(枕草子 一)
 
△代作
あかなくにまだきも月のかくるゝか やまのはにげていれずもあらなん(惟喬皇子)
おしなべてみねもたひらに成なゝん やまのはなくば月もかくれじ(紀ありつね代作)
                               (伊勢物語 下)
 
(惟喬皇子の歌)
かりくらしたなばたつめにやどからん 天の川原に我はきにけり(在原業平代作)
かへし
ひととせに一たびきます君まてば やどかす人もあらじとぞ思ふ(紀ありつね)
                            (古今和歌集 九羇旅)
 
みがくれてすだくかはづのもろ声に さはぎぞ渡るゐでのうき草(良暹法師代作)
                  (続世継 四小野の御幸 後朱雀院女御生子)
 
いかばかりさびしからまし山里の 月さへすまぬこのよなりせば
                            (真如院僧都公円代作)
                           (袋草紙 三 錦織八郎)
 
きみがよはさしてもいはじ三笠山 あめのしたにもまさむかぎりは
きみがへむいまゆくすゑのとほければ けふのまとゐぞつきせざるべき(台記)
 
水の面にふるらし雪のかたもなく きえやしなまし人のつらさに
恨むなよ影みし方の夕月よ おぼろげならぬ雲ま待身を(以上、冷泉中納言俊忠代作)
                             (撰集抄 二 迎西)
 
春日山神祇
春日山かすめる空にちはやぶる 神の光はのどけかりけり
鷲山釈教
わしの山おろす嵐のいかなれば 雲ものこらずてらす月かげ
是心是仏玉文
まどひつゝ仏の道をもとむれば わが心にぞたづね入ぬる
旅立空秋無常
草村におく白露に身をよせて ふく秋風をきくぞかなしき
恋昔旧跡
あるじなき宿ののきばに匂らめ いとゞ昔のはなぞこひしき(源平盛衰記 二)
 
△詠歌暗合
君が経む千世をならせる□声にや 台の竹の春の初風(中院通村村卿同詠)
                       (風のしがらみ 上 道晃法親王)
 
わが宿の松のこずゑにさはるとも しらでや月のそらにゆくらん(熊谷直好)
萩の花咲ちる露にやどるとも しらでや月の空にゆくらん(壬生集)
 
咲をだに見はてぬ花のさくら田を 千代の春ともたのみけるかな(山田公章)
ことしだにみはてぬ庭の椎柴を 千代の蔭ともたのみけるかな(松田春平)
                              (以上、寄居歌集)
 
△思歌不得
[思ひ寝の]心の花をしをりにて 夢にわけ入るみよしのゝ山(自然斎)
(御製)
賎のをの心をよするいせの海のもくずの中に玉の有りとは(霊元院)
                              (兎園小説 七集)
 
[池水のかげは氷にとぢられて] こよひの月は空にこそあれ(奥州波奈志)
 
△歌有別才
例題歌無し
 
△誦歌
いにしへの のなかふるみち あらためば あらたまらむや のなかふるみち
きみこそは わすれたるらめ にきたまの たわやめわれは つねのしらたま
                           (類聚国史 七十五歳時)
 
いづかたになきて行らんほとゝぎす 淀のわたりのまだ夜ふかきに
                        (拾遺和歌集 二夏 壬生忠見)
 
水もなく見え渡る哉大堰川 きしの紅葉は雨とふれども(西公談抄 中納言定頼)
 
青柳のみどりの糸をくりかへし 夏へて秋ぞはた織はなく(十訓抄 四)
 
△引証古歌
わが庵は都のたつみしかぞすむ よをうぢ山と人はいふなり(十訓抄 二 喜撰)
 
同じ枝を分て木の葉の移ふは 西こそ秋の始めなりけれ(十訓抄 一 藤原勝臣)
 
七夕は天のかはらをなゝかへり のちのみそかをみそぎとはせよ
                      (後撰和歌集 四夏 よみ人しらず)
 
みちのくの安立が原の黒塚に おにこもれりといふはまことか
                           (常山紀談 九 平道盛)
[次へ進んで下さい]