12  手本歌/近世
 
          手本歌/近世  ※短歌講座手本歌 06.05.03
 
 《近世》
 
賀茂真淵
 紫の日もはろばろといづる日に 霞いろこきむさの野のはら
 
 み吉野を我見にくればおちたぎつ 滝のみやこにはな散り乱る
 
 筑波山しづくのつららけふとけて 枯生カレフのすすき春風ぞ吹く
 
本居宣長
 敷島の大和心を人問はば朝日ににほふ山桜花
 
 軒くらく春の雨夜のあまそそぎあまたも落ちぬ音のさびしさ
 
香川景樹カゲキ
 ゆけどゆけど限りなきまでおもしろし小松が原のおぼろ月夜を
 
 真白班マシラフの鷹ひきすゑてもののふの狩にといづる冬はきにけり
 
 しきしまのうたの荒穂田アラホダあれにけりかく耕やかせ歌の荒寸田アラスダ
 
吉田松陰
 親思ふ心にまさる親心今日のおとづれ何と聞くらん
 
 身はたとへ武蔵ムサシの野辺に朽ちぬともとどめおかまし大和魂ヤマトダマシヒ
 
平野国臣
 わが胸の燃ゆる思ひにくらぶれば煙はうすし桜島山サクラジマヤマ
 
僧良寛
 朝霧に一条ひくし合歓の花 夜の霜身のなる果やつたよりも
 
 月よみの光を待ちてかへりませ山路は栗の毬の多きに
 
 あは雪の中にたちたるみちおゝほちまたその中にあわ雪ぞ降る
 
 かにかくにものな思ひそ弥陀佛のもとの誓ひのあるにまかせて
 
 たらちねの母がみくにと朝夕に佐渡が島べをうちみつるかな
 
 水茎のあとも涙にかすみけりありし昔のことを思ひて
 
 うたやよまむてまりやつかむ野にや出む君がまにまになしてあそばむ 貞心
 
 うたもよしてまりやつかむ野にやでむ心ひとつをさだめかねつも
 
 これぞこれほとけの道に遊びつつつくやつきせぬみのりなるらむ 貞心
 
 つきてみよひふみよいむなここのとをとおさめてまた始まるを
 
 あづさ弓春になりなば草のいほをとく出て来ませ逢ひ度きものを
 
 世の中にまじらぬとにはあらねどもひとり遊びぞわれはまされる
 
 武蔵野の草葉の露のながらへてながらへ果つる身にしあらねば
 
 飯イヒ乞うとわが来しかども春の野にすみれつみつつ時を経にけり
 
 道の辺ベにすみれつみつつ鉢の子を忘れてぞ来しその鉢の子を
 
蓮月尼
 宿かさぬ人のつらさをなさけにて朧月夜オボロヅキヨの花の下臥し
 
 はらはらと落つる木の葉にまじりきて栗の実ひとり土に声あり

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