11c 手本歌/古代
《後撰集》
紀貫之
花もちりほととぎすさへいぬるまできみにもゆかずなりにけるかな
藤原雅正
花鳥のいろをもねをもいたづらにものうかる身はすぐすのみなり
《拾遺集》
《後拾遺集》
和泉式部
あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびのあふこともがな
暗きより暗きみちにぞ入りぬべきはるかに照らせ山のはの月
くろかみの乱れもしらず打臥せばまづかきやりし人ぞ恋しき
しらつゆもゆめもこの世もまぼろしもたとへていはばひさしかりけり
もの思へばさはの蛍もわが身よりあくがれ出ずるたまかとぞ見る
とどめおきて誰を哀アハレと思ふらんこはまさるらんこはまさりけり
長奥麻呂
苦しくも降りくる雨か三輪が崎佐野の渡ワタリに家もあらなくに
藤原定家
駒とめて袖打ち払ふ蔭もなし佐野の渡の雪の夕暮
紫式部
めづらしき光さし添ふ盃はもちなからこそ千世をめぐらめ
相模
さみだれはみつのみまきのまこも草刈り干すひまもあらじとぞおもふ
恨みわびほさぬ袖だにあるものを恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ
能因法師
都をばかすみと共にいでしかど秋風ぞ吹く白河の関
そむけれどそむかれぬはた身なりけり心のほかにうき世なければ
こころあらん人に見せばや津の国のなにはわたりのはなのけしきを
世の中をおもひ捨てこし身なれどもこころよわしと花に見えける
《金葉集》
《詞花集》
《千載集》
《新古今集》
藤原俊成
石イハばしる水の白玉かず見えてきよたき川に澄める月かげ
月冴ゆる氷のうへにあられふり心くだくる玉川のさと
あふことは身をかへてとも待つべきに世々をへだてんほどぞかなしき
今日といへばもろこしまでもゆく春を都にのみと思ひけるかな
太上天皇
ほのぼのと春こそ空にきにけらしあまのかぐ山霞たなびく
藤原定家
春の夜の夢の浮橋とだえして峯にわかるる横雲の空
見わたせば花も紅葉もなかりけりうらのとまやの秋のゆふぐれ
西行
木曽人は海のいかりをしづめかね死出の山にものりにけるかな
おしなべてものを思はぬ人にさへ心をつくる秋の初風
心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮
津の国の難波の春は夢なれやあしの枯葉に風渡るなり
人にこで風のけしきも更けぬるにあはれに雁のおとづれてゆく
待たれつつ入相の鐘の音すなりあすもやあらば聞かむとすらむ
ねがはくば花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ
式子内シキシナイ親王
山ふかみ春ともしらぬ松の戸にたえだえかかる雪の玉水
かへり来ぬ昔を今と思ひねの夢の枕ににほふ橘タチバナ
桐の葉もふみわれがたくなりにけりかならず人を待つとなれども
玉の緒よたえなばたえねながらへば忍ぶることのよわりもぞする
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