11 手本歌/古代
 
            手本歌/古代  ※短歌講座手本歌 06.05.03
 
 《万葉集》
 
中大兄天皇
 香具山と耳梨ミミナシ山とあひし時立ちて見に来し印南イナミ国原
 
井上王イノヘノオホキミ
 三輪山をしかも隠すか雲だにも情ココロあらなも隠さふべしや
 
大伴家持
 さく花はうつろふ時ありあしひきの山菅スガの根し長くはありけり
 
 春の野に霞たなびきうらがなしこの夕かげにうぐひす鳴くも
 
 わが屋戸ヤドはいさき群竹ムラタケふく風の音のかそけきこの夕ユフベかも
 
 うらうらに照れる春日ハルヒに雲雀ヒバリあがり情ココロ悲しも獨しおもへば
 
 新しき年の始の初春の今日ふる雪のいや重シけ吉事ヨゴト
 
山辺赤人
 ぬばたまの夜のふけぬれば久木ヒサギおふる清き河原に千鳥しば鳴く
 
 田兒タゴの浦うち出でて見れば真白マシロにぞ不盡フジ高嶺に雪はふりける
 
 不盡フジの嶺にふりおける雪は六月ミナツキの十五日モチに消ケぬればその夜降りけり
 
 春の野にすみれつみにと来コし吾ぞ野をなつかしみ一夜宿ネにける
 
柿本朝臣人麻呂
 さざなみの志賀の辛崎幸くあれど大宮人の船待ちかねつ
 
 ささなみの志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも
 
 あしびきの山鳥のをのしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む
 
 あしひきの山河の瀬の響ナるなへに弓月ユツキが嶽タケに雲立ち渡る
 
 大君は神にしませば天雲アマグモの雷イカヅチの上にいほらせるかも
 
 久堅の天見るごとく仰ぎ見し皇子ミコの御門ミカドの荒れまく惜しも
 
 茜さす日は照らせれどぬばたまの夜渡る月の隠らく惜しも
 
 秋山のもみぢを茂み迷ひぬる妹を求めむ山路ヂ知らずも
 
 黄葉モミヂバのちりぬるなへに玉梓タマヅサの使を見ればあひし日思ほゆ
 
 もののふの八十ヤソ宇治河ウヂガハの網代木アジロギにいさよふ波の行方ユクヘ知らずも
 
 淡海アフミの海ミ夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ
 
當麻真人麻呂の妻メ
 わが背子は何處イヅク行くらむ奥つもの隠ナバリの山を今日か越ゆらむ
 
 ま草刈る荒野にはあれど黄葉モミヂバの過ぎにし君が形見カタミとそ来し
 
 飛鳥トブトリの明日香の里を置きて去イなば君があたりは見えずかもあらむ
 
 山の辺の御井を見がてり神風カムカゼの伊勢小女イセヲトメども相見つるかも
 
大津皇子
 あしひきの山のしづくに妹イモ待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに
 
 ももづたふ磐余イハレの池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠カクりなむ
 
鏡王女
 玉くしげ覆オホるを安み開けて行かば君が名はあれどわが名し惜しも
 
藤原鎌足
 玉くしげみむろの山のさなかづらさ寝ずはつひにありかつましじ
 
 吾ワレはもや安見児得たり皆人の得エがてにすとふ安見児得たり
 
久米禅師
 み薦コモ刈る信濃の真弓わが引かば貴人ウマヒトさびていなと言はむかも
 
詠人不知
 福サイハヒのいかなる人か黒髪の白くなるまで妹イモが声を聞く
 
弓削皇子ユゲノミコ
 いにしへの恋ふる鳥かも弓弦葉ユヅルハの御井の上より鳴きわたり行く
 
額田王ヌカダノオオキミ
 いにしへの恋ふらむ鳥はほととぎすけだしや鳴きし吾が思モへるごと
 
 あかねさす紫野行き標野シメノ行き野守ノモリは見ずや君が袖ソデ振る
 
 むらさきのにほへる妹を憎ニクくあらば人づまゆゑに吾ワレ恋ひめやも
 
 淑ヨき人の良しと吉ヨく見て好しと言ひし芳野よく見よよき人よく見つ
 
 三輪山をしかも隠すか雲だにも情ココロあらなむ隠さふべしや
 
笠女郎カサノイラツメ
 陸奥ミチノクの真野マノの草原カヤハラ遠けども面影オモカゲにして見ゆとふものを
 
 思ふにし死シニするものにあらませば千チたびぞ吾は死にかへらまし
 
 皆人を寝よとの鐘は打ちつれど君をし思モへば寝イねがてぬかも
 
 相アヒ思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼ガキの後シリヘに額ヌカづくごとし
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