04f 昭和天皇御製1
 
 昭和三十四年
 
 「窓」
*春なれや楽しく遊ぶ雉子キギスらの すがたを見つつ窓のへに立つ
 
 (皇太子ご成婚)
 あなうれし神のみ前に皇太子の いもせの契り結ぶこの朝
 
 (前同)
 皇太子の契り祝ひて人びとの よろこぶさまをテレビにて見る
 
 「靖国神社九十年祭」
 ここのそぢへたる宮居の神がみの 国にささげしいさををぞおもふ
 
 「千鳥ケ渕戦没者墓苑」
 国のため命ささげし人々の ことを思へば胸せまりくる
 
 「那須 二首」
 谷川をくだりてゆけば楢の枝エに かかりて葛の花咲ける見ゆ
 
 「前同」
 み空には雲ぞのこれる吹き荒れし 野分のあとの那須の高原
 
 「伊勢湾台風」
 皇太子をさし遣はして水のまがに なやむ人らをなぐさめむとす
 
 「愛知 三重 岐阜の風水害」
 たちなほり早くとぞ思ふ水のまがを 三つの県の司に聞きて
 
 昭和三十五年
 
 「光」
*さしのぼる朝日の光へだてなく 世を照らさむぞわがねがひなる
 
 「はじめての皇孫」
 山百合の花咲く庭にいとし子を 車にのせてその母はゆく
 
 「山形県植樹祭 二首」
 人びととしらはた松を植ゑてあれば 大森山に雨は降りきぬ
 
 「前同」
 実桜の花にまじれるりんごの花 田づらの里は咲きにほふかな
 
 「米沢市」
 国力クニヂカラ富まさむわざと励みつつ 機ハタ織りすすむみちのくをとめ
 
 「飯坂の宿」
 たぎちゆく摺上川の高ぎしに かかりてにほふふぢのはつ花
 
 「九州への空の旅」
 白雲のたなびきわたる大空に 雪をいただく富士の嶺みゆ
 
 「水前寺陸上競技場にて」
 大阿蘇の山なみ見ゆるこのにはに 技競ふ人らの姿たのもし
 
 昭和三十六年
 
 「若」
*旧き都ローマにきそふ若人を 那須のゆふべにはるかにおもふ
 
 「前同」
 のどかなる春の光にもえいでて みどりあたらし野辺の若草
 
 「福寿草」
 枯草ののこれる庭にしかぎくの 花さきにけり春いまだ浅く
 
 「長崎復興」
 あれはてし長崎も今はたちなほり 市の人びとによろこびの見ゆ
 
 「鏡山の眺望」
 はるかなる壱岐は霞みて見えねども 渚うつくしこの松浦潟
 
 「有明海の干拓を憂へて」
 めづらしき海蝸牛ウミマイマイも海茸ウミタケも ほろびゆく日のなかれといのる
 
 「雲仙岳 仁田峠」
 大阿蘇は波路はるかにあらはれて 山なみうすく霞たなびく
 
 「雲仙岳 薊谷 二首のうち一首」
 あいらしきはるとらのをは咲きにほふ 春ふかみたる山峡ヤマカヒゆけば
 
 「雲仙岳 地獄」
 わきいづる湯の口の辺に早く咲く みやまきりしまかたちかはれり
 
 「日本航空シティ・オブ・サンフランシスコ号に乗りて 二首」
 空翔カけて雲のひまより見る難波 ふるき陵ミササギをはるかにをろがむ
 
 「前同」
 白波のよせてはかへす大島を つばさのしたになつかしく見る
 
 「六十の賀 三首」
 ゆかりよりむそぢの祝ひうけたれど われかへりみて恥多きかな
 
 「前同」
 還暦の祝ひのをりも病あつく 成子のすがた見えずかなしき
 
 「前同」
 むそとせをふりかへりみて思ひでの ひとしほ深きヨーロッパの旅
 
 「支笏湖畔」
 湖をわたりくる風はさむけれど かへでの若葉うつくしき宿
 
 「磐梯吾妻スカイライン」
 さるをがせ山毛欅ブナの林の枝ごとに 垂るるを見つつ道のぼりゆく
 
 「福島県赤井谷地にて」
 雨はれし水苔原に枯れ残る ほろむいいちご見たるよろこび
 
 「福島県視察 翁島の宿にて」
 なつかしき猪苗代湖を眺めつつ 若き日を思ふ秋のまひるに
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