04e 昭和天皇御製1
昭和三十年
「泉」
*みづならの林をゆけば谷かげの 岩間に清水わきいづる見ゆ
「松島」
春の夜の月のひかりに見わたせば 浦の島じま波にかげさす
「相撲」
久しくも見ざりし相撲スマヒひとびとと 手をたたきつつ見るがたのしさ
「八月十五日 那須にて」
夢さめて旅寝の床に十とせてふ むかし思へばむねせまりくる
「神奈川県三ツ沢の国体会場(平沼亮三横浜市長)」
松の日をかざして走る老人の ををしきすがた見まもりにけり
「小田原に往復の折、吉田茂元首相の家の前を通りて詠める」
往きかへり枝折戸を見て思ひけり しばし相見ぬあるじいかにと
「社会福祉法人エリザベス・サンダース・ホーム」
この子らをはぐくむ人のいたつきを 思ひてしのぶ十とせのむかし
昭和三十一年
「早春」
*たのしげに雉子キギスのあそぶわが庭に 朝霜ふりて春なほさむし
(エチオピア皇帝ハイレ・セラシエ一世訪日)
外国トツクニの君をむかへて空港に むつみかはしつ手をばにぎりて
「山口県植樹祭」
木を植うるわざの年々さかゆくは うれしきことのきはみなりけり
「前同」
人々とつつじ花咲くこの山に 鍬を手にして松うゑてけり
昭和三十二年
「ともしび」
*港まつり光かがやく夜の舟に こたへてわれもともしびをふる
「漁船」
ひき潮の三河の海にあさりとる あまの小舟の見ゆる朝かな
「葉山にて 三首のうち一首」
舟出してはるけくも見つ大島の けむりにまがふ峰のしらくも
「那須にて」
高原に立ちて見わたす那須岳に 朝ゐる雲のしろくしづけし
「静岡県の旅 水口屋にて西園寺公望を思ふ」
そのかみの君をしみじみ思ふかな ゆかりも深きこの宿にして
「四十周年記念に際し全国民生委員に」
さちうすき人の杖ともなりにける いたつきを思ふけふのこの日に
「佐久間ダム」
たふれたる人のいしぶみ見てぞ思ふ たぐひまれなるそのいたつきを
昭和三十三年
「雲」
*高原のをちにそびゆる那須岳に 帯にも似たるしらくもかかる
「赤間神宮ならびに安徳天皇陵に詣でて」
水底に沈みたまひし遠つ祖を かなしとぞおもふ書フミ見るたびに
「富山国民体育大会」
ときどきの雨ふるなかを若人の 足なみそろへ進むををしさ
「和倉の宿」
波たたぬ七尾の浦のゆふぐれに 大き能登島よこたはる見ゆ
「社会福祉法人ルンビニ園」
御ほとけにつかふる尼のはぐくみに たのしく遊ぶ子らの花園
「博多の宿 二首のうち一首」
行きかよふ車をさばく警官の うごき見てゐぬやどの窓より
「阿蘇の宿」
裏山にのぼりて見ればなつかしき 雲仙岳はほのかにかすめり
「鹿児島」
ながむれば春のゆふべの桜島 しづけき海にかげをうつせり
「宮崎の宿にて」
来て見ればホテルの前をゆるやかに 大淀川は流れゆくなり
「明仁と正田美智子の結婚内約」
喜びはさもあらばあれこの先の からき思ひていよよはげまな
「皇太子の婚約を喜ぶ歌」
けふのこの喜びにつけ皇太子に つかへし医師クスシのいさをを思ふ
(フィリピンのガルシア大統領夫妻訪日)
外国トツクニのをさをむかへついさかひを 水にながして語らはむとて
(前同)
戦タタカヒのいたでをうけし外国の をさをむかふるゆふぐれさむし
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