04b 昭和天皇御製1
 
 昭和二十二年
 
 「あけぼの」
*たのもしく夜はあけそめぬ水戸の町 うつ槌の音も高くきこえて
 
 「帝室林野局の農林省移管 四首のうち二首」
 九重につかへしことを忘れずて 国のためにとなほはげまなむ
 
 「前同」
 料の森にながくつかへし人々の いたつきを思ふ我はふかくも
 
 「帝室博物館の文部省移管 三首」
 いにしへのすがたをかたるしなあまた あつめてふみのくにたてまほし
 
 「前同」
 いにしへの品のかずかずたもちもて 世にしらしめよ国の華をば
 
 「前同」
 世にひろくしめせとぞ思ふすめぐにの 昔を語る品をたもちて
 
 「新憲法施行」
 うれしくも国の掟のさだまりて あけゆく空のごとくもあるかな
 
 「東北地方視察」
 あつさつよき磐城の里の炭山に はたらく人をををしとぞ見し
 
 「長野県大日向村」
 浅間おろしつよき麓にかへりきて いそしむ田人たふとくもあるか
 
 「広島」
 ああ広島平和の鐘も鳴りはじめ たちなほる見えてうれしかりけり
 
 「折にふれて」
 霜ふりて月の光も寒き夜は いぶせき家にすむ人をおもふ
 
 「前同」
 冬枯のさびしき庭の松ひと木 色かへぬをぞかがみとはせむ
 
 「前同」
 潮風のあらきにたふる浜松の ををしきさまにならへ人々
 
 「紙」
 わが国の紙見てぞおもふ寒き日に いそしむ人のからきつとめを
 
 「栃木県益子窯業指導所にて」
 ざえのなき媼のゑがくすゑものを 人のめづるもおもしろきかな
 
 「和倉温泉」
 月かげはひろくさやけし雲はれし 秋の今宵のうなばらの上に
 
 昭和二十三年
 
 「春山」
*うらうらとかすむ春べになりぬれど 山には雪ののこりて寒し
 
 「前同」
 春たてど山には雪ののこるなり 国のすがたもいまはかくこそ
 
 「折にふれて 三首のうち二首」
 せつぶん草さく山道の森かげに 雪はのこりて春なほさむし
 
 「前同」
 風さむき霜夜の月を見てぞ思ふ かへらぬ人のいかにあるかと
 
 「東京国民体育大会」
 風さむき都の宵にわかうどの スポーツの歌ひびきわたれり
 
 「牛」
 たゆまずもすすむがををし路をゆく 牛のあゆみのおそくはあれども
 
 (富士山)
 しづみゆく夕日にはえてそそりたつ 富士の高嶺はむらさきに見ゆ
 
 昭和二十四年
 
 「朝雪」
*庭のおもにつもる雪みてさむからむ 人をいとどもおもふけさかな
 
 「福岡県大牟田」
 海の底のつらきにたへて炭ほると いそしむ人ぞたふとかりけり
 
 「佐賀県因通寺洗心寮」
 みほとけの教まもりてすくすくと 生ひ育つべき子らにさちあれ
 
 「長崎県雲仙岳」
 高原にみやまきりしまうつくしく むらがり咲きて小鳥とぶなり
 
 「熊本県開拓地」
 かくのごと荒野が原に鋤をとる 引揚びとをわれはわすれじ
 
 「前同」
 外国トツクニにつらさしのびて帰りこし 人をむかへむまごころをもて
 
 「前同」
 国民とともにこころをいためつつ 帰りこぬ人をただ待ちに待つ
 
 「葉山」
 しほのひく岩間藻のなか石のした 海牛をとる夏の日ざかり
 
 「湯川秀樹博士ノーベル賞受賞 三首」
 新聞のしらせをけさは見てうれし 湯川博士はノーベル賞を得つ
 
 「前同」
 賞を得し湯川博士のいさをしは わが日の本のほこりとぞ思ふ
 
 「前同」
 うれひなく学びの道に博士らを つかしめてこそ国のさかえめ
[次へ進んで下さい]