0401f 昭和天皇御製2
 
 昭和六十一年
 
 「水」
*須崎なる岡をながるる桜川の 水清くして海に入るなり
 
 沼原にからくも咲けるやなぎらんの 紅の花をはじめて見たり
 
 「両国の国技館」
 ふたたび来て見たるやかたのこの角力 さかんなるさまをよろこびにけり
 
 「山梨国民体育大会」
 晴れわたる秋の広場に人びとの よろこびみつる甲斐路国体
 
 (山梨県)
 斧入らぬ青木ヶ原のこの樹海 のちの世までもつたへらるべし
 
 (高松宮の病)
 うれはしき病となりし弟を おもひつつ秘めて那須に来にけり
 
 (前同)
 成宮に声たててなくほととぎす あはれにきこえ弟をおもふ
 
 「後藤光蔵元侍従武官の死去」
 知恵ひろくわきまへ深き軍人の まれなる君のきえしををしむ
 
 昭和六十二年
 
 「木」
*わが国のたちなほり来し年どしに あけぼのすぎの木はのびにけり
 
 「八月十五日」
 この年のこの日にもまた靖国の みやしろのことにうれひは深し
 
 「しるしの木にたぐへて兄弟のうへをよめる」
 わが庭の竹の林にみどり濃き 杉は生ふれど松梅はなき
 
 「高速船シーガルに乗りて」
 ひさしぶりかつをどりみて静かなる おほうなばらの船旅うれし
 
 (皇太子に国事行為の臨時代行をゆだねられる)
 秋なかば国のつとめを東宮に ゆづりてからだやすめけるかな
 
 思はざる病となりぬ沖縄を たづねて果さむつとめありしを
 
 国民に外つ国人も加はりて 見舞を寄せてくれたるうれし
 
 「酒井恒博士逝く」
 船にのりて相模の海にともにいでし 君去りゆきぬゆふべはさびし
 
 「木原均博士逝く」
 久くも小麦のことにいそしみし 君のきえしはかなしくもあるか
 
 昭和六十三年
 
 「車」
*国鉄の車にのりておほちちの 明治のみ世をおもひみにけり
 
 「伊豆須崎の春 三月」
 みわたせば春の夜の海うつくしく いかつり舟のひかりかがやく
 
 「道潅堀 七月」
 夏たけて堀のはちすの花みつつ ほとけのをしへおもふ朝かな
 
 「全国戦没者追悼式」
 やすらけき世を祈りしもいまだならず くやしくもあるかきざしみゆれど
 
 「那須」
 あぶらぜみのこゑきかざるもえぞぜみと あかえぞぜみなく那須の山すずし
 
 「那須の秋の庭 九月」
 あかげらの叩く音するあさまだき 音たえてさびしうつりしならむ
 
 (治療にあたった医師への歌)
 くすしらの進みしわざにわれの身は おちつきにけりいたつきを思ふ
 
 昭和六十四年
 
 「晴」(歌会始のためにご準備された御製)
 空晴れてふりさけみれば那須岳は さやけくそびゆ高原のうへ
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