0401c 昭和天皇御製2
 
 昭和五十年
 
 「祭り」
*我が庭の宮居に祭る神神に 世の平らぎをいのる朝朝
 
 「北米合衆国の旅行 三首」
 いそぢあまりたちしちぎりをこの秋の アメリカの旅にはたしけるかな
 
 「前同」
 ながき年心にとどめしことなれば 旅の喜びこの上もなし
 
 「前同」
 こともなくアメリカの旅を終へしこと もろもろのひとの力ぞと思ふ
 
 「ワシントン私邸にて」
 在りし日のきみの遺品を見つつ思ふ をさなき頃に学びしことなど
 
 「アーリントン墓地にて」
 この国の戦死将兵をかなしみて 花環ささげて篤くいのりぬ
 
 「リンカーン記念堂にて」
 戦の最中モナカも居間にほまれの高き 君が像をかざりゐたりき
 
 「前同」
 わが国にてしりしなつかしきシーボルト ここに来たりて再びあひぬ
 
 「前同(佐分利貞夫外交官)」
 君が像スガタをわれにおくりし佐分利貞夫の 自らいのちを絶ちし思ほゆ
 
 「バルツ農場にて」
 畑つもの大豆のたぐひ我が国に わたり来む日も遠からなくに
 
 「サンディエゴ動物園にて」
 オカピーを現ウツつにみたるけふの日を われのひと世のよろこびとせむ
 
 「前同」
 豪州よりユーカリの木をうつしうゑて 飼いならしたりこのコアラベアは
 
 「捕鯨反対のデモ」
 時々は捕鯨反対をわれに示す 静かなるデモにあひにけるかな
 
 「多くの日系人にあひて」
 アメリカのためにはたらく人々の すがたをみつつたのもしと思ふ
 
 「前同」
 幸得たる人にはあれどそのかみの いたつきを思へばむねせまりくる
 
 「米国の旅行を無事に終へて帰国せし報告のため伊勢神宮に参拝して」
 たからかに鶏(奚+隹)トリのなく声ききにつつ 豊受の宮を今日しをろがむ
 
 「三重国民体育大会」
 秋深き三重の県アガタの人びとは さはやかにしもあひきそひけり
 
 「朝熊アサマ山の眺望」
 をちかたは朝霧こめて秋ふかき 野山のはてに鳥羽の海みゆ
 
 「湖畔のホテルにて」
 比良の山比叡の峯の見えてゐて 琵琶のみづうみ暮れゆかむとす
 
 「ハイレ・セラシエ エチオピア皇帝を悼む」
 永き年親しみまつりし皇帝の 悲しきさたをききにけるかな
 
 昭和五十一年
 
 「坂」
*ほのぐらき林の中の坂の道 のぼりつくせばひろきダム見ゆ
 
 「在位五十年」
 喜びも悲しみも皆国民と ともに過スグしきぬこの五十年
 
 「前同 東宮御所の祝」
 鮮やかなるハタタテハゼ見つつうかららと かたるもたのししはすにつどひて
 
 夕餉をへ辞書をひきつつ子らとともに しらべものすればたのしくもあるか
 
 「国際電信電話株式会社 茨城衛星通信所 二首のうち一首」
 このゆふべ南伊豆にて大雨の ふるとしききてうれひはふかし
 
 「佐賀の宿にて」
 朝晴の楠の木の間をうちつれて 二羽のかささぎとびすぎにけり
 
 昭和五十二年
 
 「海」
*はるばると利島トシマのみゆる海原の 朱アケにかがやく日ののぼりきて
 
 「須崎の立春」
 春たてど一しほ寒しこの庭の やぶこうじの葉も枯れにけるかな
 
 「常陸宮の新邸」
 新しき宮のやしきをおとづれて 二人のよろこびききてうれしも
 
 「高野山にて」
 史フミに見るおくつきどころををろがみつつ 杉大樹オホキ並む山のぼりゆく
 
 「折にふれて」
 初秋の空すみわたり雲の峯 ひざかりにそびゆ那須岳の辺ヘに
 
 弘前の秋はゆたけしりんごの実 小山田の園をあかくいろどる
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