第五段 第一場 広野 (第二場 小舎) 広野の真中にバウシス及び゜フィレモンと呼ばるゝ爺さん婆さんの小舎(こや)がある、で 彼らは是の舎前を過(よ)ぎる旅人を止め、其の小舎に休息して旅の疲労(つかれ)を 癒さんことを勤めて居る、此の老夫婦の物語に依て察するに、此処はファウストが実験 に供せん為め、帝王より拝領した領地である、果して如何なる事件が此の老人等の頭上に 落来るであろうか。 第三場 宮殿 広々として而かも手入行届き、華美壮麗を極めた庭園、園の中には大なる運河がある、 此の時ファウストは既に百歳の齢に達し、憂鬱なる顔をして歩みつゝある、彼は深き 冥想に沈んで居るので、それで彼が沈思の目的物は前場の老夫婦及び其の小舎の処分 方法である、乃ち彼等に退去を命ずるには代地を与えねばならず、彼等の小舎を自分の 所有物とせなければ実験を始めることが出来ないのである。 第四場 夜 番兵のリンセウスが見張場から見て居ると、老夫婦の小舎から火を発した、正に火災 で − 前日に貨物を満載して入港した船の水夫三人を、メフィストが煽動して小舎に 放火せしめたので − 老夫婦は勿論、其の夜宿泊して居った旅客も皆無惨なる焼死を 遂げたのである。 第五場 真夜中 四人の灰色の服を着けた、老いたる女が舞台に現われる、罪、欠乏、憂慮、悲哀の四 を表示した四人で、この四人とファウストとの間に不愉快極まる会話がある、で彼等は ファウストの死期近きにあることを告げた、ファウストは今悟りの道に葦を踏入れた ので、彼の精神が今まで魔術に依て麻痺せしめられて居ったことを知った、それで、 「最早宇宙の法則を打破せんが為めに、意志の力を用ゆるが如きことは断じてせぬ」 と断言し、清き霊の輝ける光明は彼の脳裡胸中を照らし始めた旨をも述べる。 |
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