第四段 第一場 高山 岩石鋸歯の如く尖りたる峯、飛雲屡々徂来し、其の雲が岩石に当って砕け散る様 なかなかに物凄い、此処にファウスト現われ来る、 − 長靴は七哩の長途を歩行した、 で、其の足音から察すると二足の長靴である、一足は云わずと知れたメフィストで − 峯の頂上に達した時、ファウストは例の特異の独語、次でメフィストとの問答 が始まる、ファウストは「新に一個の希望を生したが其の希望を当てゝ見よ」と云う、 メフィストは頭を傾けて「領地を得たき望か」と問う、「否」、「快楽か将た栄誉か」 「否、否」。ファウストの希望は此の種のもので無かった、海水の日々陸地を蚕食侵害 しつゝある有様につき、彼は苛(いらた)だしきまで心を苦しめ、如何にもして海水を 陸地から遮断する方法を案出したいという希望で、彼がこれに就てメフィストに物語って 居る折しも、喇叭の音が聞こえる、何事が起ったかとファウストは驚く、メフィストは 徐ろに其の理由を説明する、それは斯様だ、過般厚き眷顧(けんこ)を賜わった皇帝は、 今対手国と戦端を開き、帝自ら軍を率いて此に交戦せんとしつゝある、此の機を利用 して皇帝の軍を助け、其の勝利を確保しては如何、而して其功労に依て海辺の広漠たる 領地を得て、十分の実験を行い、以て彼れファウストの希望を満足せしむるが宜しか ろうと云うのである、ファウストは直ちに此の意見に賛同した、そこでメフィストは 三個の精霊を呼出し、夫々武装せしめてこれをファウストに与えた。 第二場 平野に突出でたる高地 太鼓の音及び軍楽は下方に響く、そこに帝王の天幕は張られてある、やがてファウスト 来りて拝謁を請い、策を献じ且つ其の率い来りたる武者(つわもの)共を帝の軍中へ 加えて、帝の勝利を保証する、斯くて戦は開始されたが、帝王は天幕の前に玉座を置か れ、ファウストとメフィストとを御側に置かれて戦況を御覧ぜらる、戦の形勢変化する 毎に、ファウスト一々説明言上する。 第三場 敵国帝王の天幕 玉座の周囲には歴々の面々列び居る、分捕物、捕虜の事などに何れも忙殺されて居る 処へ、俄然対手国の帝王四人の将軍を率い、凱歌を奏しつゝ乱入し、縦横に追散らす、 ここで右四人の将軍は名誉の表章を賜わったが、やがて入来る大僧正は、魔術者などを 近づけて不当の勝利を得たことに就て、帝王に対して諌言を奉り、結局教会に莫大な 寄附金を下賜せらるゝことに就て成功した。 |
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