メフィストフェレス戸口に現わる。
メフィスト
切り上げましょう、迅くしないと貴郎もやられますぜ、いらざる躊躇をして繰言に
時を移すとは何です、馬は嘶いて東天(ひがし)は白んできた。
マーガレット
床(ゆか)の下から上ったのは何者です、おや彼の男だ、彼の男だ、追い払って
下さい、此の神聖な場所には要が無い筈……、妾を捕えに来たのかしら。
ファウスト
何も死ぬには及ぶまい。
マーガレット
神様の御裁判に此身を御委せ申します。
メフィストフェレスはファウストを引きて、
メフィスト
さあ、さあ、迅く行こう、置去りにして僕は御免を蒙る。
マーガレット
「天に在(まし)ます大神よ、妾はあなたの子で御座います、御救いください、天
の使人(つかいひと)よ、天の軍人(いくさびと)よ、どうぞ妾の周囲に下り立って
守らせたまえ」。
おさらば、ハインリヒさん、貴郎の御身ばっかりが案じられます。
メフィスト
とうとう宣告されたな。
声
(上方)
彼の女は救われたり。
メフィスト
さあ、僕と一緒に。
メフィストフェレスはファウストを拉して消え去る。
声
(下方)
(声は次第に遠くなり凄くひゞく)
ハインリヒ……、ハインリヒ……。
ファウスト前編終
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