GLN町井正路訳「ファウスト」

第二十五場 牢獄

 メフィストフェレス戸口に現わる。
 
メフィスト  切り上げましょう、迅くしないと貴郎もやられますぜ、いらざる躊躇をして繰言に 時を移すとは何です、馬は嘶いて東天(ひがし)は白んできた。
 
マーガレット  床(ゆか)の下から上ったのは何者です、おや彼の男だ、彼の男だ、追い払って 下さい、此の神聖な場所には要が無い筈……、妾を捕えに来たのかしら。
 
ファウスト  何も死ぬには及ぶまい。
 
マーガレット  神様の御裁判に此身を御委せ申します。
 
 メフィストフェレスはファウストを引きて、
 
メフィスト  さあ、さあ、迅く行こう、置去りにして僕は御免を蒙る。
 
マーガレット  「天に在(まし)ます大神よ、妾はあなたの子で御座います、御救いください、天 の使人(つかいひと)よ、天の軍人(いくさびと)よ、どうぞ妾の周囲に下り立って 守らせたまえ」。
 おさらば、ハインリヒさん、貴郎の御身ばっかりが案じられます。
 
メフィスト  とうとう宣告されたな。
 
(上方)  彼の女は救われたり。
 
メフィスト  さあ、僕と一緒に。
 
 メフィストフェレスはファウストを拉して消え去る。
 
(下方)  (声は次第に遠くなり凄くひゞく)
 ハインリヒ……、ハインリヒ……。
 
No.15牢獄内の悲劇
 
 
 
ファウスト前編終

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