牆壁の角少し凹みたる所に、哀神マーダドロサの像あり。
像の前に二三の花瓶置かる。
マーガレットは花立の中に持参したる花をさして神前に手向ける。
マーガレット
いと悲しげに立ち給う、
御面(みおもて)向けよ、憐みて。
聖母の胸には剣あり、
百千の痛み懐きつゝ、
御子の屍を見守りぬ。
大父君を仰ぎみつ、
嘆きまししか、あまたたび、
御身と御子の幸なきを。
誰かまた、悟らんや、
骨身を刻む此の嘆き、
震いおのゝき且つ悩み、
心は茲処に燃ゆるなり、
聖母ぞ独り知ろしめす。
往けど復れどなげきのみ、
悩み悩みて果てしなく、
胸の痛みを堪え兼ぬる、
眠ることなき永き夜に、
泣入り、泣入り、泣入りて、
妾の胸は破れなん。
麻まだき手折りし花を、
捧げまさんと妾(わ)が窓の、
花瓶(はないけ)取れば早や既に、
涙のしずく満ちてけり。
豊栄登る朝日かげ、
ほがらにてらす室のうち、
千々の思に乱れつゝ、
寝床に坐してはや泣きぬ。
聖母ぞ救い給わずば、
恥の中に妾死なん、
いと悲しげに立ち給う、
御面(みおもて)向けよ、憐みて。
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