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ファウスト
何に、君と僕とは既に知友の間ではないか、来たい時は何時でも来給え、君の出口
には窓もあるし、戸もあるじゃないか、さあ、其処に烟突もあるよ。 メフィスト 実は出るのに少し都合の悪い者があるのです、あの敷居の上にある、五光射出の魔符 で困って居るのです。 ファウスト あの五角神符が君を困らせると、そんなら地獄の子たる君が、何うして入ったのか、 何うして係蹄に懸ったのか。 メフィスト 御覧ください、五角神符は正しく引かれて無いんです、外側の一角が少し開いて居る ものですから、入るときは入れましたが。 ファウスト 夫は僥倖だった、して見ると君は今僕の捕虜(とりこ)だね、全く偶然だ。 メフィスト 尨犬の時には、前後も観ずに飛び込んだのですが、今は局面ががらりと変って、悪魔は 戸惑いいたしました。 ファウスト 何故窓から出ないのだ。 メフィスト 悪魔や幽霊には規則があって、初め忍び入った処からで無ければ出る事はできない、 這入るときは自由だが、出る時は難(むつかし)いのです。 ファウスト 地獄にも夫々規則があると云うのは妙だね、兎に角君は捕虜なんだから、僕の云う 通りに契約し給え。 メフィスト 致しましょうとも、御希望とあれば、少しの切短(きりつめ)も無い様にきちんと 条文になさっても宜しゅう御座いますが、只今其の条項を精密に審議する時間が有り ませんから、夫は又次回にして下さい、何卒今夜は帰して下さい。 ファウスト まあ、一寸待て、愉快(おもしろ)い話説(はなし)でも聞かせ給え。 メフィスト 兎に角目下(いま)は帰して被下い、復直に帰って来ます、而して其時は何でも御尋ね 下さい。 ファウスト 君を捕えようとして僕は係蹄を装置(かけ)たのでは無いぜ、君の任意に躍入ったの だろう、何処に悪魔を捕えて免す人があるものか、復捉えたくても直ぐと云うわけには 行かぬからね。 メフィスト では止むを得ません、貴君の御相手となって此処に居ると致しましょう。けれど条件 を付けて下さい。魔法の力で時間を愉快(おもしろ)く過ごすと云う条件です。 ファウスト よし、快く承知した、けれど愉快でなかったら破約だぞ。 |
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