噫、何と云うか、実に何とも云い様のない歓喜が、油然として総身に湧き出て来た、
神聖な幸福と、春の様な心地が新たに神経と血管とを温める、あゝ、幻想に狂った我が
胸の嵐を静め、寂寞たる憫れな、我が心に歓楽を満し、神秘の力で自然の威力を我が
身辺に開発させる、此の表号を書いた者は神ではなかろうか、唯這の秘印を瞻めた許りで、
活ける自然が眼前に彷彿として現われて来た、俺の目は透通る様になってきた、今俺も
一個の神となったのではあるまいか、今初めて思い当る、古し聖賢が、「霊界は鎖され
ざるなり、唯爾の眼は閉じ、爾の心は死せるのみ、起て門下の子よ、汝等の俗腸を暁の光に
洗い浄めよ」と叫んだのは、実に正当だと思う。 渠宇宙の符号を熟視する。 此宇宙の秘印に画かれたる三球体は、万物の互に相依り相輔け合って、円満な一個の 「全」を綴って居る事を意味するのだ、之等の諸星を通じて数多の天使は昇りつ降りつ、 黄金の甕を互に交換して居る、而して之等天使の翼から撒き散らさるゝ幸福は、天より 地に至る凡ての物に微妙な調子を与えて居る、噫、何たる偉観、何たる壮観だろう、併し 之は壮観だと云うに過ぎない、唯だこれ丈けでは限りのない自然の真相を何処に捉え得る 事が出来よう、汝万生の源泉、天地を支え居る源泉よ、痛める胸の憧るゝ源泉よ、汝は 滾々として溢れ、常に能く飲ましむるを吝まざるに、我のみ独り徒に渇して死なねば ならんのか。 渠焦燥って書を繰りあけ、遂に地球の精霊の符号を見出す。 あゝ、這の符号を見たら何だか妙な気持ちになった、必然地球の精霊が近づいたに 違いない、元気が興奮って来た、新酒を飲んだ様に熱(ほて)って来た、世界に乗り出し、 此の世の喜憂に耐え、風雨と格闘し、泰然として難破船の甲板に立得る位の勇気が渾身 に充満して来た、あゝ、雲が立ち罩(こ)め、つきの光が隠れ、燈火は消えた、霞は たなびき、流星は飛ぶ、頭の上で深紅の光が閃く、ヤ、ヤ、天井から怖ろしいものが 降りてきて俺を撰んだぞ、さては自分が呼び求めた精霊が身の辺りに飛んで居るのだな、 姿を示せ、地球の精霊よ、あゝ何物だか俺の心を掻ムシ(かきむし)るようだ、俺の五官は 新しい感覚を得ようとして悶躁(もが)いて居る、自分の心を全く汝に委せて了うた様な 気がする、侭よ、仮令死んでも汝を見にゃ済まされぬ。 渠一巻を手にして口に精霊の呪文を念ず、一団の紅光閃き騰り焔の裡 に精霊現われ来る。 |
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