精霊
我を呼んだは誰か。
ファウスト
(面を背けて)恐ろしい姿だなあ。
精霊
お前は強てこの俺を祈り出したのではないか、お前は我領界から永らく食料を吸い
取って、然るに今………。
ファウスト
おゝ、怖ろしい、最早見る勇気もない。
精霊
お前は我が姿に接し、我が声を聞き、我が顔を見ようとして熱心に祷ったではないか、
俺は貴様に祷り出されて這裡(こゝ)に現われ出たのだ、あゝ半神のファウスト、
如何なれば憐むべき臆病心に取り付かれたるぞ、汝が霊魂の叫びは何処にある、
一世界を創り、之を支え之を養い居った汝の胸は何処にある、歓喜の震動に吾等精霊と
同列に漲り膨れた其胸は何処にある、声を振わせ全力を挙げて我に逼ったファウスト、
お前は何処に居る、我を認めて死なん許りに戦慄へ、臆病に悶え苦しむ虫は汝であるか。
ファウスト
おのれ火焔の姿め、俺は決して負ける気はないぞ、汝の匹敵者ファウストは俺だ。
精霊
人生の潮流と行為の嵐の中に、
われはしも波と漂い、
梭(ひ)の如く自在に飛び交う、
生と死と限り知られぬ海原を、
飛び行く時の其の筬(おさ)に、
変遷の機踏鳴し、
大神の衣ぞわれは織る。
ファウスト
広漠たる台地を遍歴する多忙な精霊よ、俺も丁度君の様な者だ。
精霊
貴様は自分で想うて居る精霊の如きものだ、決して我の様なものではない。
地の霊消ゆ。
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